【インタビュー】内閣官房IT総合戦略室~行政・民間手続きのワンストップサービスの展望(前編)

株式会社ウェブクルー マネージャー 松原義尚氏(左)、内閣官房IT総合戦略室 参事官補佐(当時) 向上啓氏(右)

今年9月に行われたデジタル庁の設置やマイナンバーカードの利活用など、現在国家戦略として社会インフラのデジタル化が進められています。2020年12月に改定された「デジタル・ガバメント実行計画」では、行政のあり方そのものをデジタル前提で見直すデジタル・ガバメントの実現に向けた具体的な取組みが示されました。そしてその取組みの一環として、「引越しワンストップサービス」をはじめとした国民生活の利便性を高める行政手続きのデジタル化やワンストップ化なども積極的に推進されています。

今回は、そんなプロジェクトを主導する内閣官房IT総合戦略室参事官補佐(当時)の向上啓氏に行政手続きのワンストップサービスを中心に、国の目指すワンストップサービスについてお話を伺いました。聞き手は、「引越しワンストップサービス」の協力主体会社に2018年度から4年連続選出された株式会社ウェブクルー・マネージャー松原義尚氏です。

本記事は前編と後編の2回に分けてお届けします。
内閣官房IT総合戦略室は現在デジタル庁へと組織改編されていますが、本文中は取材当時の名称のまま掲載しています。

デジタル・ガバメント実現に向けて制度面と技術面、双方から支えていく

松原氏:
まず初めに「デジタル・ガバメント実行計画」において、向上さんの所属する内閣官房IT総合戦略室がどのような役割を担っているのかお聞かせください。
向上氏:
私たちは、ライフイベントに伴う官民の手続きをワンストップで実施できるような世界の実現を目指していますが、さまざまな手続きのワンストップサービス化を直接実現するというよりは、事務局のような形で官民のステークホルダーとの調整などを行っています。ワンストップサービスは、引越しや子育て、介護、死亡・相続など、国民の身近な生活に関係する官民の手続きをデジタル化し、オンライン完結、さらにはワンストップでできるようにしようというものです。内閣官房IT総合戦略室の業務には色々とありますが、ワンストップサービスは国民にとってわかりやすく、かつ便利さを感じてもらいやすい施策の代表例と言えます。こうした取組みを制度面、技術面双方から支えていくのが私たちの役割です。
松原氏:
今年9月にいよいよデジタル庁が設立されますが、デジタル庁と内閣官房IT総合戦略室はどのように連携してデジタル化を推進していくのでしょうか?
向上氏:
デジタル化に欠かせない要素のひとつにマイナンバーカードがあり、その利活用についてはデジタル庁が深く関わることになります。また、マイナンバーやマイナポータルを所管する内閣官房番号制度推進室と、内閣官房IT総合戦略室がひとつになって、デジタル庁に統合されるのも大きいですね。
内閣官房IT総合戦略室 参事官補佐(当時) 向上啓氏

ワンストップサービス推進の現状

松原氏:
ワンストップサービスの推進について、現時点でどの程度まで進んでいるのでしょうか。
向上氏:
最終的にはすべての手続きが意識することなくオンライン上で完結できる世界を目指していますが、引越しにおける転出・転入の話でいえば、現時点では制度上、転入届は転入先の役所に訪問しなければならなかったりします。また、死亡・相続については、戸籍の収集等が必要であったりと、すべてをワンストップで手続きすることはできません。すべての手続きをワンストップするためには非常に費用も時間もがかかるため、まずは特に負担になっている部分からデジタル化・オンライン上で手続きできるようにしていきたいと考えています。
松原氏:
今年度の通常国会で一部法改正が決定されるなど前進しているようにも思います。
「引越しワンストップサービス」の推進に向けた取り組みの一環として、「本年度通常国会にて住民基本台帳法の一部改正を決定し、令和4年度中にマイナンバーカード所持者が、マイナポータルからオンラインで転出届・転入予約を行い、転入地市区町村が、 あらかじめ通知された転出証明書情報により事前準備を行うことで、転出・転入手続きの時間短縮化、ワンストップ化を図ること(※)」を目指すことが示された。 引用:※政府CIOポータル「(終了しました)引越しワンストップサービス(自治体手続) マイナポータルを通じたオンラインによる転出届・転入予約の 実現に向けたサービス検証等に協力いただける自治体を公募します。」より
向上氏:
引越しワンストップサービスについては制度改正に加え、具体的な目標年度(令和4年度)と目指すべきサービスの形が明確化されたことが大きいと思います。その目標年度を目指して自治体を巻き込んで一緒に進めていく流れが生まれたことは大きいですね。
松原氏:
そうしたワンストップサービス実現の基軸となるマイナポータルですが、全国に1,700ある自治体の中でも、現時点で登録して使っている自治体とそうでない自治体があると伺っています。全国の自治体が登録し、利活用していくために取り組んでいることはありますか。
向上氏:
まずはマイナポータルの申請様式の標準化を進めています。これまでのマイナポータルを使ったオンライン申請では、各自治体が個別に様式を登録して使える仕様になっており標準化されていませんでした。結果として各自治体それぞれが様式を作る必要があり、大きな労力がかかっていました。そこで、令和3年度までに子育てと介護のオンライン申請について、内閣官房と総務省で連携して標準様式としてリリースし、それを使ってもらうことで各自治体の負担を減らしてオンライン申請を導入しやすくする取組みを行っています。

次に技術面では、これまで各自治体がマイナポータルと接続する場合、それぞれがLGWAN-ASP事業者と契約する必要があり、費用面でも労力の面でも負担が大きいものでした。そこで国が今年の5月にマイナポータル全自治体接続の環境整備を行い、各自治体が無料で接続できるような仕組みを提供しています。

ですから、あとは各自治体が受け入れる意思決定をするだけという環境にはなっています。ただ現時点でマイナポータルに接続していない自治体や、独自のシステムを導入して使っている自治体もあるので、そういった自治体に対し、しっかりマイナポータルを使うメリットや意義を説明し、同じ方向を向いてもらえるよう働きかけていくことも私たちの大切な役目だと思っています。

関連記事:行政DXにみる、DX成功への第一歩「標準化」

松原氏:
そういった意味では、民間事業者が転出・転入届など引越しの時に必要な官民の手続きを一括して行う「引越しワンストップサービス」は、ワンストップサービスを推進する上で強力な後押しとなるのではないでしょうか。
向上氏:
そうですね。引越しというのは、家財道具を運んだり居を移したりする手間に加え、転出・転入に関する行政手続きや民間手続きなど、非常に手間がかかるものです。「引越しワンストップサービス」はそうした負担を軽減する点で国民も自治体も利便性を実感しやすいサービスだと言えますね。利用者はもちろん、自治体に関心を持ってもらうという意味でも、こうした利便性が分かりやすいサービスは積極的にアピールしていくべきだと思っています。
株式会社ウェブクルー マネージャー 松原義尚氏

民間事業者と自治体の共創、どこまで足並みを揃えるべきか

松原氏:
ワンストップサービスを推進する上で、自治体のオンライン化への取組みの重要性について伺いました。次に民間事業者と自治体が接続するにあたって「データ標準」の整備が課題となるように思いますがいかがでしょうか。何事も標準化した後は基準に合わせていく形になりますが、標準化する前のデータについては、クレンジングするのか、あるいは新しい基準に変換するのかなど運用の課題があります。そうしたデータ面の標準化については、一歩一歩進めて行くのでしょうか。
向上氏:
すでに官民で各種手続きのためのシステムが構築されていて、その中で独自のデータ形式等で保持している中で、すべてのデータのデータ標準を作成し、それにすべての行政機関や民間企業を適応させるのはすごく大変だと思いますし、非常に時間・費用がかかると思います。行政機関や民間企業においてすでに個別最適化されてきたものを全体最適化しようとする際、どうしても個別に負担がかかりますから。仮に自治体や省庁などの行政が対応できたとしても、すべての民間事業者が対応できなければ、標準化の意味が薄れてしまいますよね。データを標準化することを目指すことに加え、マイナンバーカードなどの共通の鍵となるようなものを上手く活用することは大事だと思います。

まとめ

前編では行政手続きのワンストップサービスが目指す社会のあり方や、ワンストップサービス推進の現状についてお届けしました。後編では、ワンストップサービスをはじめ、マイナンバーカードやマイナポータルを基軸とした行政DXの今後の展望について語っています。
(後編を読む)

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