「東京防災プラン2021」で推進されるデジタルファーストの防災・減災DX

近年、頻発化・甚大化する風水害や、今後発生が懸念されている首都直下地震を前に、2021年3月、東京都は「安全・安心な東京」の実現を目指して、2021年から2023年度までの間に防災対策を迅速かつ計画的に推進していくための事業計画として「東京防災プラン2021」を策定しました。

このプランには災害の「発生前」「発生時」「復旧・復興」の各段階でデジタル技術を活用することで、防災対策・災害対応の強化を目指す取組みも盛り込まれています。

そこで今回は「東京防災プラン2021」の中でも、ライフライン分野において取り組まれている防災・減災施策について解説します。

災害「発生前」の施策

災害が発生した際、被害状況を迅速かつ正確に把握し、復旧対策を練ったり、二次被害を防いだりすることが求められます。しかし被害の度合いは、現場の平時の状況を知らなければ検証に時間を要します。

そこで、平時から車載写真レーザー測量システム(MMS)やドローンなどを用いて道路情報を計測、一元管理し、発災時にAIによって過去の画像と比較検証することで道路の損傷などを迅速に把握する取組みが進められています。

こうしたAIによる損傷・劣化判定は下水道管など管渠でも活用が進んでおり、ミラー方式テレビカメラを用いることで損傷箇所や劣化度の判定を自動で行うシステムを構築。加えて、市民が道路の損傷などを発見した際に手軽に報告できるようなスマホアプリの開発により、損傷発見速度の向上を目指しています。

これらはいずれも発災後だけではなく、平時から実施し、損傷などを発見した際にはその都度対応することで、発災時の甚大な被害を防ぐことにもつながります。

東京都が取り組む道路管理の高度化【出典】「東京防災プラン2021」

また、道路情報や車両の通行情報、群衆データなどを収集し、東京都のデジタルツインを作成するプロジェクトも進んでいます。

これは災害時に通行不能箇所が発生した際の迂回ルートをシュミレーションしたり、いざ災害が発生した際に物資輸送ルートや避難経路をリアルタイムに検証・提示したりするためのものです。

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さらに、災害発生時に被害を最小限に抑えるためには、被害の発生場所やリスクの程度を迅速に把握する必要があります。そこで活用されているのがIoT技術。

例えば、汚水管に雨水が誤って入ること(雨天時侵入水)を防ぐため、下水道管内の水位の情報をリアルタイムに測定できる多機能マンホール蓋があります。このマンホール蓋は、測定した結果を近隣市町村と共有することで、万一、雨天時侵入水が発生した場合も、原因究明と対策を迅速に行うことが可能です。
また災害時に拠点となる省庁や都庁舎、病院などの重要施設の周辺には、スマートメーターを設置することで水圧を遠隔監視。これにより漏水などを早期に検知することで、より効果的な復旧活動を行うことができます

関連記事:自動検針からデータ活用へ。「次世代スマートメーター」の可能性 東京都が取り組むスマートメータによる配水管の漏水検知【出典】「東京防災プラン2021」

災害「発生時」の施策

災害が発生した際、迅速に各市町村の状況がわかるデータを収集し、その被害状況や緊急度に応じて優先順位を付け、避難指示などの情報発信を行ったり、対策を練ったりと、初動対応が非常に重要になってきます。

そこで応急危険度の判定調査アプリを導入し、被害現場で入力したデータをクラウド上に収集、自動で集計するシステムを構築することで、初動対応の業務効率化を図っています。

東京都武蔵野市の場合、従来の独自システムでは防災課職員だけが無線や電話、FAXなどで届く被災情報をシステムに入力できる仕様だったため、災害情報を取得してから共有するまでに最低でも5分を要していました。

しかし2021年3月に日立システムズが提供する「エリア情報サービス」を導入したことで、1分以内に作業時間が短縮され、かつインターネットに接続可能な端末があれば職員が現場からリアルタイムに写真付で報告できるようになったため、災害対策本部などでより正確な情報に基づいた意思決定が可能になっています。 「エリア情報サービス」画面イメージ【出典】株式会社日立システムズ プレスリリース「IoTを活用して特定地域のセンサー・映像情報を収集・把握・共有し、現場情報を可視化 地域防災や観光促進など、さまざまなシーンで活用できる「エリア情報サービス」を提供開始」 一方、被害が発生する前に水位や雨量、気圧、風向風速などのビッグデータをAIなどで分析し、水位変動を予測することで水門などの早期稼働につなげるケースもあります。 東京都が取り組む台風接近時のAIによる水位予測(イメージ)【出典】「東京防災プラン2021」 また、平時からタブレット端末やウェアラブルカメラを配備し、本部会議へのWEB参加などリモートで対応する体制の構築も行っています。タブレット端末などの配備は各市町村でも行われており、避難所の開設状況や地域医療機関などとの患者情報の共有などにも役立てられています。

災害後の「復旧・復興」の施策

災害発生後には市民の生活を再建するため、迅速な復旧・復興に向けた施策が求められます。その際一人ひとり被害状況が異なるため、それら個々の状況を汲み取り、状況に合わせた支援策を提示する必要があります。

そこで東京都では家屋の被害状況などを撮影し、その画像からAIを用いて被害程度を迅速に判定、被災者台帳に連携した上で罹災証明書をオンライン上で交付するといった一連の手続きを電子化する取組みが進んでいます。

こうした手続きのデジタル化は、迅速な支援につながるだけではなく、これらのデータを「災害時都民台帳システム(仮称)」に集約し、都全体の被害状況を一元管理することで、都として広域的な生活再建・復興のための施策検討にも活用することが可能です。 東京都が取り組む罹災証明の電子化【出典】「東京防災プラン2021」

求められるデジタルファーストの防災・減災対策

このように東京都では、AIやIoTなどのデジタル技術を活用し、ハード面・ソフト面の両面から防災に取り組んでいます。

「行政DXにみる、DX実現までの3つのステップとは」でも紹介したようにDXを実現するステップには3段階ありますが、いずれも既存の業務フローやビジネスモデルに捕らわれず、デジタル化を前提としたデジタルファーストの視点で取り組むことが重要。 人命や人々の生活にも直結する防災・減災の分野では、DXの推進は今後より一層求められていくと考えられます。

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