ライフライン企業や自治体で進む「デジタルツイン」を活用した業務効率化と都市のスマート化

持続可能な社会の実現に向けてさまざまな取組みが進む中、「デジタルツイン」を活用した業務やエネルギーの効率化、都市の防止やスマート化が注目されています。

「デジタルツイン」とは、センサーなどから取得したデータをもとに、 建物や道路などのインフラ、経済活動、人の流れなど様々なフィジカル空間(現実空間)の要素を、 サイバー空間(コンピューターやコンピューターネットワーク上の仮想空間)上に 「双子」のように再現したものです。 引用:東京都「デジタルツイン実現プロジェクト」

「デジタルツイン」は、元々製造業を中心に活用されていた技術で、製造工程などをデジタル上でシミュレーションし、それに基づいて実際に取り組んだ際に不備や無駄があれば改善する……という工程を繰り返すことで、業務を効率化するために使われていました。近年はIoTデバイスやセンサー技術が急速に発展したことで、都市を構成する膨大なデータを取得しやすくなり、サイバー空間に一製品だけではなく、都市そのものを再現できるようになったため、スマートシティ構想の実証をはじめ、さまざまな分野で活用されています。

2021年2月に静岡県裾野市で着工したトヨタの実証都市「Woven City(ウーブン・シティ)」もそのひとつで、自動運転やMaaS、スマートホームなどを取り入れたスマートシティの実証に向けて「デジタルツイン」を活用しています。同様に都市のエネルギー利用の効率化や防災といった観点からも日本各地のインフラ企業や自治体で実証がスタートしています。

そこで今回は都市のインフラを担うライフライン企業や自治体でどのように「デジタルツイン」が活用されているのか解説します。

さまざまな目的で活用が進む「デジタルツイン」

業務効率化、遠隔作業支援

清水建設は、トンネルの建設現場において作業員や機械、現場の状況などの情報を取得し、AIを用いて解析したガイダンス情報をリアルタイムに現場へフィードバックするデジタルツイン統合管理システム「シミズ・スマート・トンネル」を開発しました。同社は、このシステムと同社のさまざまな技術を組み合わせることで施工管理の効率化を実現しています。

例えばトンネルの発破掘削の現場では、発破によって本来掘削すべき断面よりも広く掘削した際に生じる余掘りを出来るだけ少なくすることが求められますが、そのためには発破パターンと呼ばれる火薬挿入孔の削孔位置と角度を適切に調整する必要があります。そこで清水建設は、発破現場の地山強度や過去のデータなどをもとに発破パターンを作成・実行し、さらに発破後には空間形状を3Dスキャナでスキャンして余掘り量を把握し、次の発破パターンの最適解を解析して、削孔機に入力している発破パターンを自動更新するシステム「ブラストマスタ」を開発しました。同システムは、実際に新東名高速道路高取山トンネル西工事で余掘り量を40%低減しており、施工管理の効率化に寄与するシステムといえるでしょう。

このほかにも清水建設は、現場の状況についてタブレット端末を介して遠隔地にいる関係者にライブ映像と検査データをリアルタイムで共有し、工事の品質や出来形検査の確認を行うことができる「リアルタイム遠隔立合システム」や、特殊カメラを用いて現場の作業員や機械の位置を3次元データで取得し、作業環境や作業方法を確認できる「行動モニタリングシステム」も展開しており、これらを「シミズ・スマート・トンネル」と組み合わせることで生産性と安全性の向上に貢献することを目指しています。 清水建設のデジタルツイン統合管理システム「シミズ・スマート・トンネル」概要図【出典】清水建設 ニュースリリース「山岳トンネルの発破掘削を一層効率化」

東京都は、少子高齢化などに伴う社会課題の解決や都民のQOLの向上を目指して、産学官一体で「デジタルツイン」の社会実装に取り組んでいます。「デジタルツイン実現プロジェクト」と名付けられたこのプロジェクトでは、ライフラインの管理の高度化を図る実証実験なども進められています。

例えば錦糸町駅北側エリアでは、上下水道、電力、ガス、通信などの地下埋設物の設備図面を基に「デジタルツイン」を作成し、この「デジタルツイン」と実際にレーザー探査で取得したデータを基に作成された3Dモデルを比較することで、「デジタルツイン」の位置精度を検証する取組みを行っています。これは「デジタルツイン」を用いることでどの程度業務を効率化できるのか効果検証を行うものであり、将来的には、地下埋設物の確認・照会や施工協議といった管理業務の高度化にも寄与するものとして期待されています。 東京都「デジタルツイン実現プロジェクト」における取組み【出典】東京都「第3回東京都における「都市のデジタルツイン」社会実装に向けた検討会」事務局資料

エネルギーの効率化

日本瓦斯(ニチガス)は、LPガスの製造(充填)、配送、在庫、需要といった一連のサイクルに関して、コンベア、充填機、ボンベ、車輌などから取得したデータを基にデジタル世界に再現し、現場に行かなくても、それらの状態を監視・管理したり、操作したりすることができるデジタルツイン化システム「ニチガスツイン on DL」を開発しました。

このシステムはAI解析によってシステムを自動最適化する機能を有しているため、事業サイクルに関わるガス事業者や配送会社、個人のコストを削減できるとともに、環境への負荷を低減することにもつながります。これはガス業界で初めてデジタルツインを活用した事例であり、将来的にはLPG託送領域(配送、容器管理、メーター管理、自動検針、保安業務など)における共創プラットフォームとなることを目指しています。 ニチガスのデジタルツイン化システム「ニチガスツイン on DL」システムイメージ【出典】ニチガス プレスリリース「ガス業界初、デジタルツイン1化システム「ニチガスツイン on DL2」開発 世界最大級の LP ガスハブ充填基地「夢の絆・川崎」に導入」

全国各地でカーボンニュートラルの実現に向けた取組みが加速するなか、都市部への太陽光パネルの設置も検討されています。しかし都市部の建物に太陽光パネルを設置する場合、屋根の面積や傾き、隣接する建物による日陰の発生など、設置場所だけではなく周囲の環境によっても発電量が左右されるため、より日射量が得られる屋根を選定し、効率的に太陽光パネルを設置することが大切です。

そこで三菱総合研究所、国際航業、フォーラムエイト、Pacific Spatial Solutionsの4社は、石川県加賀市と連携して、市内のデジタルツインを作成し、市内の建物の屋根に太陽光パネルを設置した際の発電量や反射光を推計するシミュレーションを開発しました。これは国土交通省が主導する「Project PLATEAU」の一貫として行われているもので、現在実証実験を行っています。将来的にはこの実験結果をもとに、都市部に太陽光パネルを普及させるための施策を検討したり、都市全体のエネルギー計画を策定したりすることが期待されています。 PLATEAU公式サイト【出典】PLATEAU公式サイト

防災

近年、災害が頻発化していることを受け、ハザードマップを公開している自治体も少なくありません。しかし従来のハザードマップは平面の地図上に記されているものが多く、どの程度被害が及ぶのかイメージしづらいものです。そこでより直観的に災害リスクを理解できるよう、3Dで視覚化する取組みが進んでいます。

例えば都市の「デジタルツイン」に、洪水や津波の浸水想定区域の3Dデータなどを重ねることで、どの高さまで浸水する可能性があるのか、また浸水継続時間はどのくらいかなど、高さも含めて理解しやすい形で表示します。

中にはひとたび洪水が発生すると市街地中心がほぼ浸水する地域もあり、こうした地域ではできるだけ高い建物に避難する「垂直避難」が有効です。そのため先ほどの浸水想定区域の「デジタルツイン」に、街が浸水しても最上階が浸水しない「垂直避難」が可能な建物を色分けして表示する取組みも進んでいます。 PLATEAU公式サイト【出典】PLATEAU公式サイト

また避難する際には、破堤から何分後に自宅に洪水が押し寄せる可能性があり、いつまでに避難すべきか、またどのような経路をたどって避難すればよいのかを理解することも重要です。そこで国土地理院が提供している「浸水ナビ」のデータを用いて、「デジタルツイン」上で洪水による浸水の広がりに伴い、道路などが使えなくなっていく様子もシミュレートできるようにしています。

さらに現在ではオフィスや商業施設を擁する複合施設など多くの人が滞在する場所での避難計画を策定するため、複数の避難計画をシミュレーションし、人の滞留状況も加味した適切な避難方法を検証しています。将来的には、これを基により精度の高い避難経路を策定したり、防災のためのまちづくりを行ったりすることが想定されています。

このように防災の観点から作成される「デジタルツイン」は、単にデータを3Dでモデリングして防災意識の向上を図るだけではなく、住民の避難行動など、実際の人の動きにつながるものとして期待されています。 PLATEAU公式サイト【出典】PLATEAU公式サイト【出典】Project PLATEAU

目的ごとに求められる「デジタルツイン」の最適なあり方

社会や技術、人々のニーズが急速に変化する今、これらの変化に対応するためのシミュレーションを迅速に行える「デジタルツイン」は、今後ますます活用されていくと予想されます。

ただし、一口に「デジタルツイン」といっても、先に述べたように業務効率化や遠隔作業支援のためのツールであったり、都市のスマート化や防災、カーボンニュートラルの実現に向けた実証材料であったり、エコシステムの土台となる共創プラットフォームであったりと活用方法はさまざまです。

自社の事業で活用する際には、ニーズに合った「デジタルツイン」のあり方を見極め、作成することが大切になってきます。よもすれば精緻な「デジタルツイン」を作成することが目的となってしまい、必要以上にデータを取得し、その取得・管理に余分な人的・経済的コストが発生することになりかねません。そうではなく、本当に必要なデータはなにか、また取得したデータをどのように管理するのか、しっかりと検証した上で活用することが大切です。

また、取得するデータの中には人々のプライバシーに関わるデータを扱う場合も考えられます。実際に東京都の「デジタルツイン実現プロジェクト」では、こうしたデータの取扱いや管理方法、法整備など、さまざまな観点から議論が続けられています。これらの動向などにも注目しながら、自社に合った形で取り入れていくことで、迅速に現状を把握し、次の取組みに向けた意思決定を行うことができるようになります。

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