保守・運用の遠隔化や効率化、高度化を促進。インフラ整備の分野で進むDX

労働人口の減少やインフラの老朽化などを背景に、道路や橋梁、上下水道をはじめとした社会インフラ整備の現場では、デジタル技術を活用することで作業を省力化、効率化し、生産性や安全性を向上することを目指しています。

中でも建設業では法改正に伴い、2024年4月から労働時間の上限規制が施行されるため、BIM/CIM(施工デジタルツイン)やICTといったデジタル技術を活用することで生産性を向上させる「i-Construction」の取組みが急速に進められています。こうした取組みの中には、ライフライン企業が関連施設や設備を検査や点検、管理する上で参考となる技術やサービスも数多くあります。

そこで今回は、社会インフラ整備の現場でどのようにデジタル技術が活用されているのかご紹介します。

国土交通省が推進するインフラ分野のDX

国土交通省が今年2月に公表した「インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション施策」によると、現在推進されているインフラ分野のDXは、主に以下の3つに分類されます。

  • これまで熟練者の技術や経験がなければできなかったことを、デジタル技術を活用することで、誰でもすぐに現場で活躍できるようにする「知識・経験のデジタル化」
  • これまで現場に行かなければできなかったことを、デジタル技術を活用することで、どこからでも行えるようにする「行動のデジタル化」
  • これまで現場でしか行えなかった手続きや情報共有を、オンライン上でできるようにする「モノのデジタル化」

ではこれら3つのデジタル化とは、具体的にどのような取組みなのでしょうか。

【知識・経験のデジタル化】ドローンや水中カメラを用いた予防保全の高度化

ダムの洪水吐や堤体等の点検では、これまで双眼鏡などを用いた目視点検が行われてきました。この業務にドローンを用いた補足調査を組み合わせることで、細部まで変状状況を把握することができるようになります。
また、ダムの堤体等のコンクリート構造物やゲート設備など水中設備の点検を行う際、水中カメラを搭載した水中維持管理用ロボットを用いることで腐食や損傷などの点検を行なうことができます。

このように、従来の点検方法にIoT機器を用いた補足調査を組み合わせることで、今後施設の老朽化に伴い、増加することが予想される施設点検や予防保全の作業を効率化、省人化するとともに、より安全かつ効果的に実施することが期待されています。 ドローンや水中カメラを用いた予防保全の高度化【出典】国土交通省「インフラ分野のDXに向けた取組紹介」

【行動のデジタル化】5Gを活用した次世代無人化施工

これまで災害現場の中でも斜面が崩落した現場などでの施工は、施工者の人命に危険が及ぶ可能性があるため、無人化施工が実施されてきました。しかし現状のWi-Fiを使用した無人化施工では、通信容量が不足したり、通信が遅延したりするため、機械の視認性や操作性が低く、生産性の低下が課題となっています。

そこで通信容量が大きく、かつ低遅延で、同時に多数の建設機械を現場に投入可能な5G回線を用いた次世代無人化施工の導入に向けた実証実験が進められています。
これにより遠隔地から高解像度映像を見ながら、現場にいるかのような感覚で機械を操作することができるため、作業の省人化や災害復旧の迅速化が期待されます。 5書G式を活設用定した無人化施工【出典】国土交通省「インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)」

【モノのデジタル化】遠隔監視制御システムのマルチベンダー化による下水道維持管理業務の効率化・高度化

これまで下水処理場では、製造会社によって仕様が異なり、かつシステム間の互換性がない監視制御システムを事業者が独自に導入、整備してきました。そのためシステム同士を連携し、広域的な施設管理を目指す上で大きな課題となっています。

そこで既存システムの大規模な改修を行うことなく、各処理場のシステムに互換性を持たせる技術を開発したり、作業の標準化を実施したりすることで、処理場ごとに人員を配置して監視制御する従来の方法から、拠点となる施設から複数の処理場を一元的に遠隔管理する方法へと低コストかつ比較的短期間で移行することを目指しています。 遠隔監視制御システムのマルチベンダー化【出典】国土交通省「インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)」

現場での活用が進むインフラ分野のデジタル化支援サービス

仮想現実技術を用いた生産性向上への取組み

国土交通省は2023年までに小規模のものを除くすべての公共事業でインフラのデジタル化を進め、BIM/CIMを活用するよう呼びかけています。

BIM/CIMとは、Building Information Modeling(建物情報のモデル化)とConstruction Information Modeling(建設情報のモデル化)からなる言葉で、設計図などのデータを3Dモデル化することで、従来の2次元データによる紙ベースの図面の作成を不要とし、データの永続的な保存・管理可能性を高める方法のことをさします。

そんな中、このBIM/CIMとAR技術を掛け合わせることで、施工現場にいる作業員の位置情報を正確に把握することができるサービスが登場しています。

AR技術を用いた技術開発を行うCellidは、独自のAR技術“Cellid SLAM”を用い、複数人の作業員のヘルメットに装着したカメラ映像から3次元位置情報を正確に推定し、大手ゼネコン・大林組の施工デジタルツイン環境上にリアルタイムで反映することに成功しました。

これらのデータを蓄積していくことで、工事の計画段階から正確な人数・工数を定量的に把握できるようになるため、工事スケジュールの短縮やコスト削減が期待されます。また今後は機能拡張や業務管理アプリとの連携などを予定しており、これらが実現されれば、遠隔地から現場へ作業指示できるようになります。 施工デジタルツイン上の3次元モデルと3次元位置情報の画面キャプチャ【出典】プレスリリース「大規模建設現場にて、AR技術*により取得された高精度3次元位置情報を、施工デジタルツイン環境にリアルタイム統合することに成功」

ドローンや3D技術を用いた上下水道インフラ現場作業の高度化

上下水道のインフラ施設は高経年化が進んでおり、改築や更新工事を繰り返してきた結果、設計図面がなかったり、設計図面があったとしても現状とはかけ離れたものとなっていたりと、設備の状況を正確に把握することが困難なケースが少なくありません。

こうした課題に対し、上下水道処理施設に必要な鋼管資材製造を行う株式会社フソウと、社会インフラや物流分野におけるDXサービスを手がけるブルーイノベーション株式会社が、ドローンおよび3Dスキャナを活用し上下水道などのインフラ施設を3Dデータ化するサービス『上下水道インフラ向け3Dモデル化』の提供を開始しました。(2021年8月時点ではトライアル提供)

これにより施設関係者間でのイメージ共有や合意形成の迅速化などが可能となるとともに、保守・運用業務の記録の一元化、遠隔化や効率化、高度化も実現し、上下水道インフラの現場が抱える課題を包括的に改善することが期待されます。 ドローンによる施設撮影風景【出典】プレスリリース「ドローン、3Dスキャナを活用した「上下水道インフラ向け3Dモデル化」のトライアルサービスを本日より開始」

インフラ分野の取組みに学ぶDXの必要性

高齢化社会の加速による労働人口の減少や、長期保全におけるデータの管理不足といった社会インフラ整備の現場でのさまざまな課題は、ライフライン企業にも共通する点が多々あります。日本全体で災害対策やスマートシティ化に向けた取組みが進む今、将来的にさまざまな業界とデータ連携していくことが予想されます。施設や設備の整備においても従来のようなハード面の検査、点検、管理だけではなく、データなどのソフト面の管理・運用も求められるようになることでしょう。その時に備えて、今から他業界で導入、活用が進む技術にも積極的に目を向け、対策を立てておく必要があるといえます。

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