自動検針からデータ活用へ。「次世代スマートメーター」の可能性

地球温暖化や電力需給の逼迫などを背景に、世界各国でデジタル技術を活用したエネルギー利用の効率化を目指す「スマートグリット」への取組みが進んでいます。その取組みのひとつとして日本では2014年より「スマートメーター」が本格導入されました。

従来のメーター検針は、電力会社やガス会社、水道局といったライフライン企業のスタッフが需要家の家やオフィスを訪れ、計量器を目視で確認し、その利用量に応じて利用料金を徴収する、非常に時間も人員も要する作業でした。そんな中登場したスマートメーターはライフライン企業へ自動的に利用量などのデータを送る通信機能を持っているため、検針にかかるコストを大幅に削減できる機器として導入が進んでいます。

中でも電力に関わるスマートメーターについて、政府は2024年までに日本全体に導入し、さらに2024年以降には「次世代スマートメーター」を導入することで、自動検針といった既存業務の効率化だけではなく、取得データの利活用などによる電力DXを推進しています。

すでに現行のスマートメーターでも、一般ユーザー向けに離れて暮らす家族の電気利用量のデータから生活リズムの変化を分析し、変化があった際に家族に通知する高齢者の見守りサービスなどに活用されています。

では次世代スマートメーターは、私たちにどのような恩恵をもたらすのでしょうか。経済産業省の「次世代スマートメーター制度検討会」で現在議論されている内容と合わせて解説します。

次世代スマートメーターによるデータ活用の想定事例

停電の早期発見・解消

現在検討会では、次世代スマートメーターに停電発生時に電力会社へ警報を即時送信できる「Last Gasp機能」を搭載することが検討されています。この機能を搭載することで電力会社は、停電発生後すぐに需要家ごとの停電状況を把握し、迅速に復旧計画を立てることができるようになります。そのため、停電時間の短縮化につながる機能として期待されているのです。

しかし「Last Gasp機能」を実装するためには蓄電池も搭載しなければならないため、費用面の課題が懸念されています。また同機能は「停電」を検知することはできても、「停電からの復旧状況」については検知できません。そのため停電を早期に発見し解消まで確認するためには、同機能を実装するよりも通電状況を検知できる機能を実装したり、現状の停電発生から復旧までの社内体制やシステムを見直したりするほうが良いのではないかなど、さまざまな議論が行われています。

いずれにせよ改正電気事業法(2020年6月成立、2022年4月施行予定)により、事前の災害対策や災害後の復旧のために、通電情報などの電力データをライフライン企業から自治体や自衛隊などに共有する仕組みづくりが進んでいます。こうしたデータをライフライン企業だけではなく、社外の団体や地域と連携し利活用していくことで、避難経路の作成・周知などより高度な公衆災害の防止を目指しているのです。 LastGaspを活用した電力設備状態検知【出典】経済産業省「第1回 スマートメーター仕様検討ワーキンググループ」の資料より「スマートメーターシステム×防災ソリューション(東京電力パワーグリッド)」

配電系統の運用の高度化による新料金メニューの検討および送電ロスの解消

次世代スマートメーターでは、有効・無効電力量や電圧のデータを数日以内に取得できるため、これらのデータを活用して送電ロスを解消したり、新たな配電事業を行ったりするなど配電系統の高度な運用が期待されています。

またデータを活用して需給パターンを詳細に把握し、それを活かした効率的なエネルギー利用が実現できれば、新たな料金メニューや顧客満足度の向上につながる新サービスも検討しやすくなるでしょう。

再生エネルギーの導入量拡大

昨今は持続可能な社会の実現に向け、再生エネルギーの導入が注目されています。しかしこれまでは再生エネルギーを導入することで、周辺の需要量に対して全体の発電量が増加し、電圧が上昇することが懸念され、大量導入が難しい状況にありました。

そこで次世代スマートメーターを導入し、その計測データを基に電圧集中の最適制御といった高度な運用を行うことで、再生エネルギーの導入量を拡大することが期待されています。これにより再生エネルギーの導入が増えれば、CO2の削減にもつながるため、持続可能な社会の実現に向けた取組みとしても注目されます。 送電網の電圧等の適正運用と電力損失削減【出典】経済産業省「次世代スマートメーター制度検討会 中間とりまとめ」の資料より「次世代スマートメーターの標準機能について(中間取りまとめ)」

需給調整市場等の取引単位見直しへの迅速な対応

現在、日本の需給調整市場の取引単位は30分です。しかし再生エネルギーの導入が増えている欧米では、より効率的に電力を運用するため、取引単位を15分粒度に統一する動きがあります。

こうした流れを受けて、日本でも次世代スマートメーターの有効・無効電圧量や高粒度データを送信する頻度を30分ごとだけではなく、15分ごとにも切り替えられるような仕様にしておくことで、今後日本が取引単位を30分から15分に切り替えた際に、迅速かつ効率的に切り替えられるよう取り組んでいます。 諸外国におけるスマートメーターデータの収集について【出典】経済産業省「次世代スマートメーター制度検討会 中間とりまとめ」の資料より「次世代スマートメーターの標準機能について(中間取りまとめ)」

持続可能な社会の実現にもつながる次世代スマートメーター

現行の低圧スマートメーターの仕様との比較した次世代スマートメーターの基本機能について【出典】経済産業省「次世代スマートメーター制度検討会 中間とりまとめ」の資料より「次世代スマートメーターの標準機能について(中間取りまとめ)」 このように次世代スマートメーターについては、導入段階から企業を横断したデータの利活用を念頭に、さまざまな議論が進められています。

その中には、これまで電力会社によって異なっていた仕様を標準化する動きもあります。
現行のスマートメーターは、電力会社によって無効・有効電力量や電圧などのデータの取得項目や粒度頻度、データの保存期間や記録期間などの仕様が一部異なっていました。しかし仕様が異なれば、企業を横断してデータを利活用する際にデータの仕様を統一するための作業が発生し、ロスが生じてしまいます。災害発生時にはそのロスが命取りになりかねません。そのためデータの利活用を行いやすいよう、それらの仕様を標準化するための議論が進められているのです。

このように仕様を標準化することで、今後電力会社を横断した共同検針への道筋も進めやすくなるでしょう。

またこれらの仕様とともに、セキュリティ対策についても来年度以降ワーキンググループが設置され、検討が始まる予定です。

現行のスマートメーターでは通信部と計量器は物理的には一体になっておらず、汎用のコネクタでつながっています。そしてそのコネクタによって通信部と計量器は一度接続すると、暗号鍵の交換とペアリングが行われ、後から別の通信部をつなげようとしても接続できないようになっています。

そこで次世代スマートメーターでは「セキュリティ・バイ・デザイン」の考え方をふまえ、通信方式などを検討する際に、コストだけではなくセキュリティ対策も念頭においた仕様の検討が予定されています。

国民の生活基盤を支えるライフライン企業であっても、デジタル技術を活用していかに業務を効率化し、量をこなすか、またいかにデータを収集するかといった「量」で他社との差別化を図る時代ではなくなってきています。それよりも業務を効率化し、収集したデータをいかに国民に還元していくか「質」が求められるようになっているのです。

そういう意味では次世代スマートメーター導入に向けた動きは、持続可能な社会の実現に向けて企業や業界を横断して、日本全体でエネルギーの利活用や新たな災害対策を考えていくひとつの指標であり、今後も注目すべき動きと言えるでしょう。

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