【インタビュー】ダットジャパン~クライアントの声に寄り添って生まれた現場管理ソフト「ゲンバスター」
住宅や道路の建設・改修を行う建築土木事業者。私たちの生活を支える彼らは今、さまざまな問題に直面しています。その問題とは、深刻な人手不足と、2024年から適用される時間外労働の上限規制による業務への影響、国が推奨する建築DXの実現など、一朝一夕には解決できないものばかりです。そうした課題に正面から挑むのが、ダットジャパン株式会社が開発した現場管理クラウドサービス「ゲンバスター」です。
クラウドベースで、あらゆる現場の情報や作業を管理できるこのサービスは、“現場を救う星になってほしい”という願いを込めて「ゲンバスター」と名付けられました。
そこで今回は、同社 プロダクツ&サービス事業部 新規サービス企画担当 畠澤健太氏と大桐渉氏に、「ゲンバスター」の開発に至った経緯や、現場の見える化・効率化など同社が「ゲンバスター」によって目指す建設DXについて話を伺いました。
35年の歴史を持つ施工管理システムの開発ベンダー
ダットジャパンは、ソフトウェアの開発から販売まで行う、開発ベンダーを基幹事業としています。建設土木事業者向けの施工管理システムの開発・販売をメインに展開していますが、一般的なメーカーとは少し異なり、クライアントのニーズに合わせて製品をカスタマイズして納品する「カスタマイズ開発」を得意としているのが特徴です。
主力製品の工事写真管理ソフトウェア「現場編集長CALSMASTER」は大手ゼネコンや大手設備管理会社にも多く導入いただいています。
1986年の創業以来、30年以上クライアントとともに建築土木業界を歩んできた当社が新サービスとして開発したのが、現場管理クラウドソフト「ゲンバスター」です。
「ゲンバスター」は、クラウドデータベースを活用し、建設現場や設備点検作業にまつわる管理業務を“スマートフォンひとつ”で完結するサービスになっています。
グループチャット上で指示書・報告書の作成と送付が可能
現在「ゲンバスター」のトライアル版に実装されているもののひとつに、グループチャット機能があります。これは案件ごとにグループチャットを作成すると、チャット上で業務内容の指示書の共有や、報告書の提出が行える機能です。この機能により、さまざまな業務の効率化と見える化が可能になりました。
例えばあるソーラーパネルの点検業者では、日々各地に設置されたソーラーパネルの点検を行う際に、まずエリアを統括する責任者が現場にいる作業員に電話でソーラーパネルの写真の撮り方伝え、記録作業を行うのが一般的です。
しかし、管理者と現場のあいだでイメージの共有ができていないと、必要な画像の撮影が不足しているなどの「手戻り」が発生する可能性があります。また現在は簡単な点検作業をアルバイトなどに外注する流れがあり、より指示書が重要になってきているといえるでしょう。
そこで「ゲンバスター」ではグループチャットに、図面付きの「指示書」をアップして共有すると、手戻りのリスクを軽減することができ、これだけでも大きな効率化につながります。
そして、現場の作業員が行う報告書の作成・提出も、時間がかかる業務です。これまでは作業員が、現場から事務所に戻り、撮った写真をエクセルシートに貼り付けて必要事項を記入し、責任者に送るというフローでした。この方法では、現場から事務所に向かう時間的な移動コストがかかり、帰宅時間も遅くなります。
その点、「ゲンバスター」を用いれば現場で報告書を作成し、チャット経由で提出できるので、事務所に戻る必要もなく、作業員負担も軽くなります。
また建設業界では熱中症の注意喚起やハーネスの取扱い方といった安全管理に関する掲示物を、必ず作業員が見るように掲示しなければならないのですが、それらも「ゲンバスター」内で見せることができます。このように「ゲンバスター」は“職人の直行直帰”を実現するツールでもあるのです。
もうひとつは、保存した写真に手書きで文字を書き込める機能です。点検で見つけた壁のひび割れや破損部分を丸で囲んだり、矢印で註釈を加えたりできます。実は直接写真に書き込む方法は、長らく現場で行われていた手法でもあるので、作業員の“使いやすさ”を考慮して実装しました。
さらに今後は電子小黒板付の写真撮影や、案件ごとのスケジュール管理など、さまざまな機能を実装する予定です。これらが適切に使用されるようになれば、どの作業をどの程度の時間で完了できるのか、作業員の能力も正しく評価できるようになりますし、コストの適正化や適切な人材配置にもつながると考えています。
「ゲンバスター」の原点はクライアントの声
当社が「ゲンバスター」の開発に乗り出した背景には、建築業界が抱える課題を解決したい、という想いがありました。現在、国土交通省では建築土木の業務にICTや3次元データを導入する「i-Construction」を推奨しています。デジタル技術を現場に取り入れて、生産性を向上するのが狙いです。
加えて2024年4月からは、建築事業者にも時間外労働の上限規制が適用されます。ほかの業界はすでに適用されていますが、建築業は深刻な人手不足やデジタル技術導入の遅れから、猶予期間が与えられていました。
働き方改革関連法が適用されると時間外労働は月45時間、年360時間の上限が定められ、それを超えると罰則の対象になります。しかし2022年現在も残業対策は遅れているのが実情です。これは建築業界だけでなく、インフラ関連の設備点検など“現場作業”が主軸になっている業界も同様の問題を抱えています。
こうした背景と、クライアントから寄せられた要望をきっかけに生まれたのが「ゲンバスター」
クライアントの声を聞くためのプロジェクトチーム設立
当社では、新たなソフトウェアを開発するために「DXP(プロジェクト)」というプロジェクトチームを立ち上げました。構想からトライアル版のリリースまで、約1年かけてクライアントにヒアリングを行いながら開発されました。これは、当社がクライアントの担当者と密に交流する「カスタマイズ開発」を行っているからこそ、実現した開発フローでもあります。
当社は、ソフトを開発する過程で業界がDXを目指すにあたって抱えている3つの課題に着目しました。
ひとつは、残業によって生じるリスクです。企業が残業の常態化に危機感を持っているのは、残業代にかかるコストよりも、長時間労働によって若手社員がやめてしまう離職リスクでした。ヒアリングの結果「若い人が働きやすい環境が整っていない」という課題に悩んでいる企業が多かったのです。
2つ目は、施工品質の統一化です。現場の担当者や支店によって報告書のフォーマットや品質に差があり、管理しにくい、という声も多くありました。そこで今後は報告書のフォーマットを用意し、それをベースに企業や支店ごとに必要な項目をカスタマイズできるようにしたり、フォーマットに変更を加える際の申請フローまで構築したりすることで、報告業務の品質の統一化を図っています。
また建設・土木業界では、国土交通省から発注された工事に関して、アプリを通して写真を撮影し、作業報告を行う場合、その写真が改ざんされたものではないという情報を付与する必要があります。これは国の団体に加入している企業しか使えない機能で、当社は長年加入してきた実績があります。
今後は、建設・土木業界だけではなく、インフラ設備の点検や一般住宅の施工に関しても同様のことが求められるのではないかと当社は予想していますし、これは企業にとっても施工品質を保証することにもつながるため、現在開発中です。
3つ目が、新たなアプリやシステムを現場に浸透させる難しさです。実際に現場で働く作業員は、直感的に使えないアプリやシステムを敬遠する傾向があります。そのため「ゲンバスター」は、現場の作業員がストレスなく使えるようなUIと使い心地を意識して作っています。またゲンバスター内のチャットツールだけではなく作成した指示書・報告書をSMSやメール、LINE等に添付し簡単に送信することができます。
当社は「ゲンバスター」を通してこれらの3つの課題をクリアし、建設業界のDX化を図っています。
あらゆる“現場”の問題を解決する「ゲンバスター」
実は当社にとって、クラウドをベースにしたソフトウェアの開発は初の試みでもありました。新たなプロジェクトを立ち上げる大変さはありましたが、営業担当者はクライアントが、業務の効率化やDX導入に悩む姿を目にしていたので、その問題の大きさを痛感しています。
また先に述べたような課題は長年、建築業界に携わる当社にとっても、重要な課題ですし、代表の犬丸もプロジェクトチームの背中を押してくれたので、新しいアイディアを取り入れやすい体制が整っています。何より当社は、クライアントの声を直接拾えるので「こういう機能がほしい」という意見があれば、すぐに開発に取り入れられる強みもあります。確実にニーズが見えている状況で開発できるのはありがたいですね。
そして今後もクライアントから寄せられる感想やご意見は、可能なかぎり活かしていく予定です。実はトライアル版のリリース後から設備点検をはじめ、太陽光発電事業や鉄道事業などを担うインフラ関連事業者や自治体の災害対策の担当者などから、「ゲンバスター」導入に関するお問い合わせを多数いただいています。当社としては、予想していない業界からのオファーでしたが「報告書の作成」や「進捗管理」の効率化は、どの業界・業種にも必要なソリューションであることを再確認できました。
今後はより多くの企業に「ゲンバスター」を導入いただき、作業員が現場から直行直帰できて、管理者はひとつのシステムですべての情報を見通せる……そんな世界の実現を目指しています
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