【インタビュー】応用地質〜人命が関わるからこそ民間の力も結集する。国内最大手の地質調査企業が目指す防災・減災DX

応用地質株式会社 取締役専務執行役員 情報企画本部長 天野洋文氏

昨今、災害大国の日本では、デジタル技術を活用した防災・減災対策が進んでいます。

中でも、ライフライン業界や建設業界をはじめ、さまざまな業界に地質調査ソリューションを提供する応用地質株式会社は、自治体や他業種の大手企業とともに防災・減災DXに取り組んでいます。

そこで今回は、同社取締役専務執行役員 情報企画本部長の天野洋文氏に、日本における防災・減災DXの課題点や今後の在るべき姿について伺いました。

以降はインタビューでの天野洋文氏の発言を編集の上掲載しています。

「予測」を「実測」で補うことで、現場の意思決定のプロセスを改善

一般的にDXはデジタルツールの導入など、IT領域のムーブメントだと捉えられがちですが、その本質は「デジタル技術を用いて何かしらを変革すること」にあります。しかし、街の防災・減災を担う自治体では、事務的な手続きなど一部の業務でデジタル化が進んでいるものの、行政サービスの大きな変革につながる施策はまだ少数で、防災・減災分野となるとなおさらDXは進んでいないのが現状です。

そもそも防災・減災は人命に関わるため、デジタルの導入が難しい領域です。たとえ技術的には可能でも、「便利だから導入すればいいよね」では済みません。どのような施策であっても、まだまだ議論や実証実験を重ねなければならないのです。

例えば、避難誘導の意思決定プロセスに有益な情報を、さまざまな地点からリアルタイム集めることができれば、逃げ遅れや被害を軽減できると考えています。そのため、弊社では、斜面や浸水の状況をセンサーでモニタリングするハザードマッピングセンサソリューションを展開しています。比較的安価で、高精度で、メンテナンスフリーなセンサーをオールインワンサービスとして提供していますので、これを多数設置すれば正確な実測値に基づく災害監視のネットワークが構築できると考えています。

これまでにも気象情報を基に被害予測はされてきましたが、その気象情報にセンサーからリアルタイムに収集した「実データ」や、さらに弊社が専門としている地質・地盤工学を組み合わせることで、防災・減災の高度化が可能になると考えています。

こうした取組みに関して、現在は行政機関からの業務がほとんどですが、今後は民間向けに情報提供するサービスも考えています。

日立製作所と取り組む地中インフラの維持・管理DX

「地中可視化サービス」の特長【出典】応用地質株式会社 プレスリリース「「地中可視化サービス」を強化し、オンデマンドで高精度な埋設物位置情報を提供」

防災・減災以外においても、インフラの建設やメンテナンス分野でDXの取組みを推進中です。

例えば弊社では日立製作所と「地中可視化サービス」を展開しています。これは地中のガス管や水道管といった埋設管を地中レーダーで探査し、その結果をクラウド上で可視化するSaaS型プラットフォームです。

これらの埋設管の位置情報等は各管理者で個別に管理されていますが、実際のところ、ほとんどの埋設管は図面通りではありません。施工の際に状況に合わせて位置をずらしたり、深さを変えたりすることはありますし、時には予測されないものが埋まっていることもあります。また各管理者の埋設管情報が統合された図面も整備されていない状況です。

老朽化した埋設管の更新などを行う際に設計図と地中の様子が異なると、その都度現場対応が求められるため、あらかじめ工事区間の埋設管の状況を把握できていた方が効率的です。そこで弊社では、地中レーダーを使って埋設管等の正しい位置をマッピングするサービスを開発しました。

このサービスを用いて埋設管の正しい位置を把握できれば、上下水道・ガス・電気・通信事業等における「調査・設計・施工」の各プロセスを効率化でき、工期やコストも圧縮できます。さらに将来的にマシンコントロールなどが実現すれば施工の自動化も可能になるでしょう。そうなれば施工プロセスが根本的に変わりますから、はじめてDXというキーワードに近づいていくのかなと思います。

大手企業だからこそ積極的に取り組むべき防災ビジネス

防災コンソーシアム(CORE)のロゴ・ステートメント【出典】応用地質株式会社 プレスリリース「災害に負けない強靭な社会をめざす「防災コンソーシアム(CORE)」が本格始動」

このように自治体だけではなく、民間企業が連携することで、防災・減災分野やインフラ・メンテナンス分野での新たなソリューションを生み出すことができると考えています。特に自治体の防災の現場では、少子高齢化による人手不足や財政難が深刻化する中、自然災害の規模や頻度が増加し、苦境に追い打ちをかけています。災害時は一刻をあらそうため「リアルタイムであること」が重要です。しかしそれに対応するためには費用や人材が莫大に必要で、自治体の保有する資源だけではもはや対応することができません。

そこで弊社は、2021年11月に国内の大手14法人とともに「防災コンソーシアム(CORE)」を発足しました。弊社応用地質はもちろん、セコムやJR東日本、NTT、三菱電機、東京海上日動火災保険など、業界の垣根を超えて多様な企業が一堂に介し、防災・減災のノウハウを集約して社会課題の解決に取り組もうとしています。

弊社の場合、斜面の変状や水位の変化はセンサーで測れますし、車の車載IoT機器や衛星、防犯カメラ、住民のSNS投稿なども被災状況の現状把握に役立ちます。このように各社が保有するデータを集約すれば、ハザードマップへリアルタイムに現地の状況を反映できるでしょう。

また保険会社では地盤や過去の被災状況などを見て、事前にリスクが高い地域・低い地域を把握していますが、連携によって被災時にリアルタイムで状況を把握できるようになれば、データに基づいた補償をいち早く行うことができます。それは保険会社にとってもサービスの付加価値となるはずです。

このように会社によって活用方法はさまざまですが、被災状況をリアルタイムで見える化することで各々の既存事業に付加価値を与えることもありますし、行政の負担を減らすことにもつながります。

私は「防災ビジネス」という領域を作るべきだと考えています。世の中に絶対に必要なサービスだと思うからです。モニタリングデータの収集から情報提供、リスク判定などの現状把握、生活再建のサポート、避難につながる災害の事前予測など、今後自治体はさまざまな場面で民間の知恵やサービスを活用して防災・減災に取り組むことが必要です。そして、そのためには企業側のモチベーションにつながるビジネス化が社会で認知される環境づくりが必要だと考えています。

これまで多くの人が「防災・減災への取り組みは行政の役割だ」と考えていたように思いますが、行政が責任を一手に引き受けてしまったことで、慎重になり、逆に何もできない状況も生まれています。

防災・減災に関して、行政と民間両者で取り組めることがあるはずです。その最大公約数を見つけ、企業が積極的に寄与していくことで、防災・減災分野に民間化の大きなムーブメントを生み出していけたらと考えています。そのために応用地質はこれからも社会課題に技術で応え続けていきます。

取材・文=鈴木 雅矩
1986年生まれのライター。過去に400件以上の取材記事を執筆し、近年はスタートアップやテクノロジーなど、ビジネス領域を中心に活動中。著書に『京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)』。
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