【インタビュー】渋谷区×セーフィー 〜データの利活用で「まちを見える化」自治体のDX〜

セーフィー株式会社 執行役員 マーケティング本部長 小室秀明氏(左)と渋谷区 デジタルサービス部 スマートシティ推進室長 加藤茜氏(右)

日本各地で行政DXへの取り組みが進む中、東京都渋谷区は、区政や区民が抱える課題を的確に把握するために、区内のデータを収集し、区の現状を可視化・分析するシティダッシュボード「SHIBUYA CO-CREATION HUB」を構築する取り組みを進めています。そして2021年10月には、シティダッシュボードをより実用的なものにするため、民間事業者からデータの利活用による提案を募集するデータ利活用促進にむけた技術実証・実装支援事業を行いました。

その事業に採択された事業者のひとつが、クラウドカメラによる映像プラットフォームを提供するセーフィー株式会社です。同社と渋谷区は、今年2月に区立宮下公園にクラウドカメラを設置し、公園利用者の数や属性推定データなどを収集、加工、分析するプロジェクト「クラウドカメラと映像解析AIを活用した利用者データの解析事業」の実証実験を実施しました。(※分析に使った映像データは採択事業終了(2022年3月31日)までに削除しており、統計情報のみを保持しています)。

そこで今回は、プロジェクトを通して見えてきた行政における映像データの利活用の在り方から、官民連携でスマートシティを推進する意義について、渋谷区 デジタルサービス部 スマートシティ推進室長 加藤茜氏と、セーフィー株式会社 執行役員 マーケティング本部長 小室秀明氏に伺いました。

渋谷区×セーフィーが連携して目指す、街づくりのスマート化

加藤氏:
渋谷区では「渋谷区基本構想」で示す政策について、スマート化の観点から分野を横断して取り組もうという「渋谷区スマートシティ推進基本方針」を定めています。IT化が進んだ現代では、街づくりにおいてもデータを収集・把握して次の一手を打つことが求められます。将来的にはそれらのデータを分析し、政策・施策を最適化できるようになればと思いますが、まずは実態を把握するデータを共有して議論しなければ、今、本当に必要な施策は打ち出せません。

「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」を基本構想として掲げる渋谷区は、行政だけではなく、産官学や個人の力を合わせて街づくりを行うことを目指しており、その第一歩として「シティダッシュボード」の作成や今回の公募事業を行いました。
小室氏:
弊社はクラウドカメラからスタートしたベンチャーですが、創業当時はまだクラウドカメラ自体の認知が低かったため、すでに市場がある防犯カメラのクラウド化という切り口で展開してきました。おかげさまで、現在は店舗の防犯や建設現場の遠隔臨場などを支援するサービスとして多く活用いただいています。ただそれらは映像そのものを活用する事業なので、今後の展開として、それだけではなくプラットフォーマーとして映像から生み出したデータを活用できないかと考えていました。

そんな中、渋谷区様の公募事業の募集を知り、エントリーした次第です。弊社は基本戦略としてトップピン戦略というものを掲げていて、“各業界をリードする企業=トップピン”のお客様の課題解決をすることで新たな領域を開拓してきましたが、自治体との取り組みを進めるのであれば、先進的な取り組みを多く実践している渋谷区様と行いたいと思いました。

実際、自治体がスマートシティを目指す場合、特定の分野の課題をその分野の中で解決し、それを積み重ねることで住み良い街にしていくという発想で取り組むところが多いと思います。しかし渋谷区様の場合、まずデータから課題を見つけ、その解決のために分野を超えて取り組んでいる。そういったスーパーシティの考え方に近い取り組みをされている自治体は、日本ではあまり見かけません。
加藤氏:
それは私が外部人材として入庁し、各分野の専門の職員ではなかったという点が大きいかもしれません。この点は、データを集める上でも役立ちました。

例えば現在ダッシュボードでは、月別の公共施設の利用者数や、駅別の放置自転車数など福祉や防災、都市空間、安全面などの情報を公開していますが、当初はこれらのデータについて区の職員に聞くと、その多くは業務の「記録」として使われており、分析し活用する「データ」としては認識されていなかったからか、「データはない」という回答を受けることもありました。

さらにそれらのデータは部門ごとに保管されていて、部門間で共有・活用できる状況ではないことがわかりました。例えば、区内の大雨や台風による被害対応について蓄積された情報を、時期やエリアなど、多様な視点で分析すれば、今後の防災施策に生かしていくということにつなげられるかもしれません。こうしたデータを広範囲で保有しているのは行政の特徴であり、区からさまざまなデータを公開することには意義があると思っています。

データの収集を行う際には、こうした意図を伝えた上で全部門に協力してもらいました。その際、理想的なのは、データ様式を統一し、その様式に合わせて各部門の職員に転記してもらうことですが、それでは現場の負担が増えてしまいます。そこで今回は、そもそもこちらがほしいデータが存在するのか、リスト上でデータの有無を答えてもらい、有る場合はデータ様式にこだわらず、今所有しているデータをそのまま提出してもらうことにしました。そしてそのデータの様式の統一や数字のトリミングは外部委託することにしたのです。

また渋谷区ではICT環境を整備するために、職員一人ひとりにMicrosoft Power BI(データ視覚化ソフト)を使える環境を整備したり、Power BIを活用するための研修を行ったりと職員のデータリテラシーの向上にも力を入れています。その過程で職員がデータを見たり、使ったりする機会も増えていましたので、データ共有を依頼した際もスムーズに取り組めました。
渋谷区 デジタルサービス部 スマートシティ推進室長 加藤茜氏。外部人材として2020年に渋谷区に入庁。行政×データ・テクノロジーという視点から、新たな産官学民連携の仕組みづくりを推進中。民間企業で培った「生活者を起点とした戦略立案と体験設計」の経験を活かし、今後の公共・社会サービス開発を目指している。

実証実験の結果、データを通して見えてきた街の姿

加藤氏:
しかしそうはいっても「データの利活用」について概念として理解はしているものの、実際に活用した事例は少ないため、今回の実証実験は「データを街づくりにどう活用できるのか」検証する取り組みでもありました。実際、今回の実証実験を通して渋谷区が得たものは多いと思います。映像の取得方法や適した機器、個人情報への配慮やデータの分析・可視化など、公共空間におけるデータの利活用について検証できました。

例えばセーフィー社には、宮下公園の様子をカメラで撮って、クラウド上でAIに分析させ、入口ごとの通行量や時間帯別の傾向、各方面へ抜けていく人数など、これまで定性的にしかわからなかった公共施設の利用状況を定量化していただきました。それらのデータを見ると、雨の日と晴れの日など天気によって通行量が大きく変わることや、近隣オフィスに勤める方のお昼休みの終盤に通行量が増えること、また最近では「まん延防止等重点措置」の影響もあってか21時前に一時的に通行量が増えることもわかりました。

これらのデータは例えば、店舗の誘致やイベント開催などに向けたマーケティングデータとしても活用できると思います。通行量に応じてキッチンカーが仕込む商品の量も調整していくことができればフードロスなどにも役立てるかもしれません。
小室氏:
街は年々変化し続けるものです。施設や道路を作れば人の流れが変わり、そのなかで求められる施策も変化していきます。しかし変化し続ける街の状況を把握するため、その都度センサーやカメラの見積や工事をしていてはスピード感が担保されません。クラウドカメラは一度設置すれば、現地に手を入れずに、変化し続ける街に対応できるようになります。

これは民間企業でも言えることですが、施策や仮説を確かめるためにはPDCAのC(Check:施策の評価と分析)プロセスが必要です。都市計画や都市運用において、従来はCの部分を定量化する方法がありませんでしたが、ようやくテクノロジーが追いついてきてサイクルが回せるようになったのではないでしょうか。
宮下公園中央階段付近:人流の概況
今回はプライバシーに配慮した形のアウトプットになりましたが、技術的には住民の顔情報と照らし合わせて「近隣からの来場者」と「郊外からの来場者」を判断することも可能です。これは法律的な問題があり現状はまだ実施できませんが、今後、法律やガイドラインの整備が進めば活用されるかもしれませんね。

データの利活用が市政のパラダイムシフトを推し進める

加藤氏:
実証実験後は、データのさまざまな利活用方法が見えてきただけではなく、各部門から「道路や工事現場などにも活用できるのでは」「こんなこともできますか?」とアイデアが出てくるようになりました。公共空間の映像データの利活用方法を具体的に提示できたことで、職員の間でもイメージしやすくなったのだと思います。

また従来は過去を確認する手段としてカメラが使われてきましたが、クラウドカメラでは現在進行形で起きている事象を捉えることができます。「今」を判断するためにカメラを使う。職員にこのパラダイムシフトを実感してもらえたことは大きかったですね。
小室氏:
「今まで人が担っていた仕事をどのように代替していくか?」と考えれば、いくらでも切り口はあると思います。例えば港区の繁華街にいる民間の警備隊は、クラウドカメラを使って街中の混雑具合を確認し、巡回ルートを変更するなど業務を効率化させています。ほかにも交通量調査はAIで自動化できますし、人とコストをかけてやっていたことはテクノロジーの力で簡略化できるようになるでしょう
セーフィー株式会社 執行役員 マーケティング本部長 小室秀明氏。フューチャーアーキテクト社にてITコンサル、リクルート社にて営業・アライアンス・全社web戦略、ナガセ社にて事業本部長を歴任。2016年1月からセーフィー社にて最高マーケティング責任者(CMO)。2020年からアライアンス戦略室室長、2022年には執行役員に就任し、各業界のトップ企業と「現場DX」プロジェクトを手がける

渋谷区とセーフィーがデータ活用を通して描く未来

加藤氏:
今後は「それぞれ異なる課題感を持った人たちがデータを通して繋がっていく渋谷区」を目指しています。実は、昨年の区民意識調査では、回答者の約7割が「街づくりに積極的に関与したい」と回答していました。民間事業者や区民が街に何かしらのアクションを起こす際に、何をするかを判断するツールとしてダッシュボードを使ってもらえたら嬉しいですね。

またこうしたデータは渋谷区だけではなく、より広域で整備・活用することでその真価を発揮すると思いますので、将来的には他の自治体とも連携した取り組みにつなげていければと考えています。そのためにも渋谷区としては、データの共有がどう実につながるのか提示していきたいですね。
小室氏:
街づくりについて感覚で議論したり、声の大きい人の意見が通ったりするわけではなく、公開されたデータを土俵に議論する体制はすごく健全だと思います。

この体制を維持するためには様々なデータを収集しなければいけません。クラウドカメラを一つ置いておけば、やりたいことに応じて、交通量や人流、ヒートマップなど様々なデータが取れます。弊社のプラットフォームはサードパーティーとの連携もできますので、区が見える化したいデータに応じてその領域が得意な民間事業者と連携することで、スピーディーにやりたいことを実現できるようになるでしょう。弊社は映像のプラットフォーマーとして渋谷区様をはじめ、行政DXに向けた取り組みを支援できたらと考えています。
取材・文=鈴木 雅矩
1986年生まれのライター。過去に400件以上の取材記事を執筆し、近年はスタートアップやテクノロジーなど、ビジネス領域を中心に活動中。著書に『京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)』。
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