行政DXにみる、DX実現までの3つのステップとは
さまざまな業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)への取組みが加速する今、企業のDXを後押ししている政府や自治体もまた、行政DXに向けて本格的に取り組んでいます。
今年9月に創設予定のデジタル庁もそのひとつです。デジタル庁では、下記を目指しています。
デジタル社会形成の司令塔として、未来志向のDXを大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げること 引用:デジタル庁仮設サイト
また、東京都は2020年を「スマート東京元年」と位置づけ、同年2月には「スマート東京実施戦略」を発表しました。この戦略の中で東京都は、「『電波の道』で『つながる東京』」「公共施設や都民サービスのデジタルシフト(街のDX)」「都庁のデジタルシフト(都庁のDX)」の3つの柱を施策方針として掲げており、東京のDX実現に向けて本格的に動き出していることがわかります。
このように「行政DX」「インフラDX」「教育DX」など、さまざまな業界でDXという言葉が用いられるようになった一方で、その実態は、単なるシステム導入や既存業務のデジタル化だけだった、という話も少なくありません。しかしDXの本質は「今さら聞けないDXの基礎知識。Withコロナ/アフターコロナに求められる企業のあり方とは」で述べたように、単に「IT化・デジタル化によって業務効率を向上させるだけでなく、新たな価値を創出する」ことです。そのためシステム導入などのデジタル化は、あくまでDXへのステップのひとつ。必ずしもデジタル化とDXはイコールではありません。
ではDXにはどのようなステップがあるのでしょうか?この記事では「スマート東京実施戦略」を例に、DXに必要な3つのステップを解説します。
DX1stステップ「デジタイゼーション」:ビジネスプロセスのデジタル化
まずDXには、「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の3つのステップがあります。その第一段階「デジタイゼーション(Digitization)」は、「局部的なデジタル化」のことをさします。
例えば、紙の書類をスキャンしてクラウド上で保存したり、コミュニケーションツールを導入して商談や打合せをオンラインで行ったりする取り組みが含まれます。また「人にしかできないことに時間を使う。ルーティンワークを自動化する「RPA」」でご紹介したRPAなどのシステム導入も「デジタイゼーション」の一例といえるでしょう。
現在東京都では「デジタイゼーション」実現のため、
- ペーパーレス
- FAXレス
- はんこレス
- キャッシュレス
- タッチレス
という「5つのレス」を掲げ、取り組んでいます。
エクセルやワードで打った文書を印刷し、FAXで送信するといった書類のやりとりは、人的・経済的に非効率なものです。そこでメールなどのデジタル技術を活用して対応する「FAXレス」を掲げ、2019年には約55万件発生していたFAXを、2020年には60%減の22万件、2021年には98%減の1.1万件まで削減し、職員の働き方をアップデートすることを目標にしています。
DXを進めようにも、これまでと同じように既存業務を行っていては、進むものも進みません。DXをスムーズに進めるためには、その前段として「デジタイゼーション」の実現が必要不可欠です。そのためには、まず具体的に目標を決め、全社で目標に対する意識を共有し、徹底的に業務を見直し、必要に応じてデジタル化すること。そうして既存のビジネスプロセスをデジタル化し、リソースを確保することがDXへの第一歩です。
またリソースを確保するという意味では、DXを社内外と協力しながら推進するデジタル人材の育成や採用、DX推進室といった組織の構築も有効です。いざDXに向けてプロジェクトがスタートしたとき、すぐに実行できるような基盤を構築しておくことで、スムーズに次の段階へ進むことができます。
この点について東京都では、ICT職を新設したり、DXフェローなどの専門アドバイザーを設置したり、専門家を外部招聘し、職員向けの「都庁デジタルセミナー」を開催したりと、今後DXを推進していく組織体制の強化にも取り組んでいます。
DXの2ndステップ「デジタライゼーション」:ビジネスのデジタル化
このように「デジタイゼーション」を徹底的に行った後、DXの第二段階「デジタライゼーション(Digitalization)」のステップに進みます。「デジタライゼーション」とは、端的に説明すると「ビジネス全体のデジタル化」です。前述の「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」は、直訳するとどちらも「デジタル化」と訳され、混合されやすいものですが、「デジタイゼーション」がビジネスプロセスのデジタル化であるのに対して、「デジタライゼーション」は、デジタル技術を活用することで、ビジネスモデルを変革することが目的です。
例えば、「デジタイゼーション」を経て、行政のデータがデジタル化されると、出生、就学、子育て、介護、転居など、これまで行政の窓口で行っていた複雑なライフイベントに関する手続きが、スマートフォンを使ってワンストップで行えるようになります。また手続きに関する相談も、チャットボットなどを活用することで、簡易なFAQに関してはオンライン上で解決できるようになり、行政の窓口に行く手間が省けるようになるでしょう。
このように、デジタル技術を活用することで、市民に対して行政サービスの向上を図ることができるだけではなく、行政にとっても窓口業務の効率化を図ることができ、その分、より高度な業務にリソースを割り当てられるようになります。
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このようにデジタル技術を活用し、既存のビジネスを新しいビジネスへと変革する。それこそが「デジタライゼーション」です。現在「デジタイゼーション」に取り組んでいる東京都は、「スマート東京実施戦略」の中で、2023年までにこの「デジタライゼーション」の段階に進むことを目指しています。
そしてこの「デジタライゼーション」を行うためには、行政内での改革や大手企業との協働だけではなく、スタートアップやシビックテックなど、多様な外部組織と共創するケースも出てきています。過去の実績を重視した協働ではなく、行政が今抱える課題を解決する技術などに焦点をあて、協働を行っているのです。この段階には「デジタルトランスフォーメーション」の実現に向けて行われる実証実験なども含まれます。
こうして現在のビジネスプロセスをデジタル化する「デジタイゼーション」、デジタル技術を活用することでビジネスモデルを変革する「デジタライゼーション」のステップを経て、最後に「デジタルトランスフォーメーション(DX)」のステップに進みます。
DXの3rdステップ「デジタルトランスフォーメーション(DX)」:持続可能なビジネスモデルへの変革
テクノロジーが発達し、人々のニーズが急速に変化する今、行政もサービスの内容や提供の方法など、時代の変化に合わせて、常に対応方法を変えていく必要があります。しかしニーズが変化するたびに、一から制度やシステムを構築していては、時間やコストがかかるばかりです。最悪の場合、そうした制度やシステムを構築している間にも、次のニーズが生まれ、いたちごっこになってしまいます。そうした状況は、行政のサービスの低下だけではなく、それら行政を束ねる国全体の競争力を落とすことにもつながりかねません。
DXとは単に「IT化・デジタル化によって業務効率を向上させるだけでなく、新たな価値を創出する」ことです。めまぐるしく日々変化する人々のニーズに合わせて、価値を創出し続けることができる、持続可能な状態であること。それがDXの真の姿といえるでしょう。
行政手続きでいえば、出生や就学、子育て、介護など、一人ひとりのライフステージや時代に合わせて、必要な行政手続きを、最適なタイミングで、迅速に、手軽に行えるような状態であること。医療や福祉においては、各病院や薬局などに散らばって管理されている健康情報や既往歴、薬歴などの情報を連携し、一人ひとりの健康状態にあったサービスがいつでもどこでも提供できるような状態です。さらに移動に関しては、リアルタイムの渋滞情報や、鉄道やバスなど公共交通機関の運行状況、カーシェアやシェアサイクルの空き状況などの連携により、シムーレスにストレスなく移動できる状態であることです。
東京都が「スマート東京」と呼ぶ、こうした変化に強い行政の在り方は、DX時代の企業の在り方にも通じるところがあります。
「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」のステップを丁寧に進め、徹底的にDXを推進するベースを検証、構築することが、DXの真価を発揮するために重要なフローといえるでしょう。
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