拡張現実が現場を変える。遠隔作業支援ツールとしての「スマートグラス」活用事例

富士キメラ総研が発表した「AR/VR関連市場の将来展望 2020」によると、2020年から2030年にかけて約441億円から約14兆円まで市場拡大するといわれているスマートグラス市場。

その市場の中心はBtoB向けのスマートグラスです。労働人口の減少や高齢社会などを背景に、いかに効率的かつ効果的に熟練作業員の知識や経験を未熟練者に継承し、作業を行うかが課題となる中、それらに対応するためのソリューションとして導入されています。

そこで今回は、そもそもスマートグラスとは何か、またどのように活用されているのか解説します。

ARスマートグラスとMRスマートグラス

BtoB市場で活用が進んでいるスマートグラスには、拡張現実を表示できる「ARスマートグラス」と、複合現実を表示できる「MRスマートグラス」があり、それぞれ以下の特徴があります。

ARスマートグラス

ARとはAugmented Reality(拡張現実)の略で、肉眼で見える現実世界に、映像などのデジタルコンテンツを重ね合わせ、画面表示できる技術。VR(Virtual Reality、仮想現実)と間違えられやすい技術ですが、VRは「非現実的な世界をあたかも現実であるかのように見せる技術」であるのに対し、ARは「現実の中に非現実的なものを追加する技術」です。

例えばBtoC向けのARコンテンツとしては「ポケモンGO」で、現実世界にスマートフォンのカメラをかざすとモンスターがその場にいるかのように表示される機能が話題になりました。同様にAmazonでも部屋でインテリアを置きたい場所にスマートフォンをかざすと、まるでその部屋にインテリアがあるかのように表示できる機能があります。

こうしたAR表示機能をスマートフォンではなくメガネに搭載した製品が「ARスマートグラス」です。ARスマートグラスは比較的小型かつ低価格で、長時間稼働できることが特徴です。導入の手軽さとハンズフリーで使えることから、物を運ぶなど両手が塞がりやすい現場や、作業員が多く初期コストが高くなりがちな現場での導入が進んでいます。

MRスマートグラス

MRとはMixed Reality(複合現実)の略で、AR技術の一種です。ただしARに比べてセンシング機能に優れており、かつ3D表示が可能なため、現実世界に非現実的な世界を重ね合わせることができます。

例えば施設の補修工事の打ち合わせを行う場合、現状を反映した建築模型に、工事完了後のイメージを重ね合わせて表示することで、工事の工程を共有しやすくなります。また模型に3Dモデルを重ねた状態で、360°確認することができるため、平面図だけではイメージしづらかった建築内部の様子なども確認しやすくなります。

こうしたMR表示機能をメガネに搭載した製品が「MRスマートグラス」です。MRスマートグラスは、ARスマートグラスに比べて性能を重視した製品が多いため、高価でサイズが大きい傾向にあります。しかし今後技術の発展により、装着性や耐久性の向上、軽量化が進めば、ARスマートグラスがMRスマートグラスに移行していくと期待されています。

このように用途によって使い分けられているスマートグラスですが、WEBシステムと組み合わせて使用することで、現場から離れた場所にいる支援者に現場の状況を共有したり、支援者が作業員に指示やアドバイスをしたりすることができます。こうした遠隔作業支援システムは、支援者ひとりに対して、複数の作業員とスマートグラスを介してやりとりができるため、1対1での従来の方法に比べ、効率的な技術継承が可能です。

現場導入が進むスマートグラス活用事例

実際にスマートグラスはどのように活用されているのでしょうか。スマートグラスと接続可能なWEBシステムとともに紹介します。

サン電子が提供するスマートグラス×遠隔作業支援ソリューション

サン電子は自社で開発したARスマートグラス「AceReal One」と、「AceReal One」を用いた遠隔作業支援ソリューション「AceReal Assist」を提供しています。

これらを組み合わせることで、例えば施設の外壁の亀裂を調べる際に、現場の作業員が着用しているスマートグラス「AceReal One」のカメラを通して、遠隔地にいる作業支援者に状況を共有することができます。
その際、支援者が適切なタイミングで写真や動画を撮影し、作業報告や振り返りに活用したり、画面共有機能を用いて作業員に資料を送ったり、地図を表示しながら経路案内を行ったりすることが可能です。また騒音があるなど支援者の声が聞き取りにくい現場では、テキストメッセージを送り、的確に指示を出すこともできます。

加えてこの「AceReal One」は、「AceReal One」を着用した人同士で会話したり、映像を共有したりする機能もあるため、支援者と作業員が離れた場所で同じ機器を操作する場合も、支援者が作業した工程を「AceReal One」で録画し、遠隔地にいる作業員に映像を共有することで、視覚的にもわかりやすい作業支援を行うことができます。

さらに2021年10月末よりサン電子は、NTTドコモと共同で提供している法人向け遠隔作業支援ソリューション「AceReal® for docomo」の内容を拡充しました。これにより「AceReal Assist」に対応できるスマートグラスが「AceReal One」だけではなく「RealWear」や「Everysight Smartglasses」といったスマートグラスも追加されたほか、顧客は「ドコモオープンイノベーションクラウド®」を利用することで、秘匿性の高い映像や情報の送受信を、インターネットを介さない高セキュアな通信環境で行うことができるようになりました。 AceReal Assistの主な機能【出典】プレスリリース「遠隔作業支援ソリューション「AceReal Assist」を提供開始」より

VUZIXのスマートグラス

スマートグラス専門のメーカーVUZIXは、製造業や航空業界など各業界に合わせた法人向けのスマートグラスを主力製品として展開しています。そのため防水や防塵などそれぞれの業界のニーズに合わせた仕様がデフォルトで実装されており、導入もスムーズです。またコロナ禍においては、その精度の高さから遠隔医療や救急医療の現場での導入が進み、他業界への展開が期待されます。

VUZIXはアメリカのメーカーですが、日本の販売代理店やパートナーも数多く存在しており、中でも遠隔作業支援ソリューションに関しては、KDDIの「VistaFinder Mx Cloud」などさまざまなパートナーのシステムと連携しています。 Vuzix M400 スマートグラスの活用事例【出典】プレスリリース「John Deere がブラジルでVuzix M400 スマートグラスを導入し、機器のトレーニングとメンテナンスの遠隔支援を提供」より

Microsoftのスマートグラス

Microsoftは自社で開発したMRスマートグラス「HoloLens2」と、「HoloLens2」を用いた遠隔作業支援ソリューション「Dynamics 365 Remote Assist」を提供しています。

基本的な活用方法は前述の2例と同じですが、前述の2例がAR表示であるのに対し、「HoloLens2」はMR表示が可能です。そのため「HoloLens2」をかけた複数の作業員の視野にあたかもその場に存在するかのように3Dモデルを表示することができます。またその3Dモデルを360°さまざまな角度から見ることができるため、平面図などではわかりづらい作業工程などについても詳細に打ち合わせを行うことができます。

また「HoloLens2」はセンシング技術も非常に優れており、作業員の指の位置情報までも正確に取得可能。そのため現場作業員が「HoloLens2」を通して作業を進める際に、作業者の視野に次の作業を矢印で示したり、作業時の注意事項を表示したりするなど、より的確な指示を出すことができます。

2019年の発表後、さまざまな業界で「HoloLens2」に対応するシステムの開発が進んでいます。例えばBentley Systemsが提供する建設工程を可視化するシステム「SYNCHRO XR」と連携すると、建物の工事中の姿から完成した姿まで、実際の工事現場に重ね合わせて見ることができます。

このように「HoloLens2」は高性能な分、ARスマートグラスに比べ、本体が重く長時間作業するには負担が大きいため、今後は軽量化などハード面の改良が期待されます。 HoloLens2【出典】HoloLens2公式サイト

多くの企業が参入し成長が期待されるスマートグラス市場

スマートグラス市場はVUZIXのようなハードメーカーだけではなく、MicrosoftやGoogle、Metaといったソフトメーカーも注目し、参画が進んでいる分野。
メーカー、導入企業の双方からのアプローチにより、今後もさまざまな技術や製品が展開されていくことが予想されます。

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