2030年までに約27億ドル到達予測。「公共安全センサー」市場の今

デジタル技術を活用することで温度や湿度、圧力や光といった環境のモニタリングや異常検知などを行う「公共安全センサー」。

その市場は、今年10月SDKI Inc.が発刊した「世界の公共安全センサー市場ー予測2022ー2030年」によると、2022年から2030年にかけて16.7億米ドルから27億米ドルまで成長すると予測されています。この急成長の背景にはIoTやAI、AR/VRといった技術革新はもちろん、世界各国でスマートシティに向けた取組みが進む中で、政府と企業が連携し、公共の場への導入を進めていることも挙げられます。

そこで今回は「公共安全センサー」が実際にどのように活用されているのか、漏水検知、温度検知、ガス漏れ検知の3つの事例を基に解説します。

日立製作所の「超高感度振動センサー」を活用した漏水検知サービス

これまで地中に設置された下水管で漏水が発生していないか調査する際は、調査員が徒歩で市内を巡回し、公道上の制水弁や消火栓などに音聴棒を当て、漏水音を聞き分ける方法で行われてきました。しかし熟練調査員が減少している近年、中には5年以上調査されていない地域もあり、効率化が求められています。

そこで日立製作所は、上下水道局などを対象に超高感度振動センサーを活用した漏水検知サービスの提供を行っています。これは超高感度振動センサーを水道管に設置しておくことで、漏水時に発生する特有の振動を検知し、スコア化。IoTネットワークを活用して、クラウド上の監視プラットフォームに送信するサービスです。

これにより監視者がその場にいなくてもプラットフォーム上で漏水の疑いがある箇所を確認できるため、調査員が巡回調査を行う労力や時間を削減できるようになりました。また異常管路を早期に検知し、補修に向けて迅速に対応できるため、住民から通報を受けた後に緊急工事を行う状況も低減できるほか、漏水による断水や道路の陥没事故も防ぐことができ、公共安全に寄与するサービスと言えます。

同サービスは、2016年の熊本地震によって市内全域が断水するなど大きな被害が発生し、漏水の早期発見の対策を検討していた熊本市で実証実験が行われました。その結果、設置した水道管で誤検知なく漏水を発見するなど一定の成果が得られたため、日立製鉄所はガス管、電力線、通信線の配管といった他の社会インフラへの展開も進めています。 日立製作所の漏水検知サービス【出典】日立製作所 導入事例:熊本市

富士通の「ODMA予兆監視 for光ファイバー」を活用した温度検知ソリューション

火力発電所などの安定稼働のためには燃料配管やボイラー煙道などの温度を監視し、万一異常がある場合には早期に検知することが求められます。

しかし従来の温度センサーはセンサーごとに通信ケーブルが必要であったり、発電所特有の制約で設置可能な場所や数にも限界があったりといった課題がありました。また電力設備の特性上、電磁波が発生するポイントも多いために、電磁波がセンサーに干渉して正常通りにセンサーが動作しないことも。加えて温度変化のしきい値を監視する方法では、しきい値を超えない限り異常検知できないため、初期の異常を捉えられないといった問題もありました。

富士通はこれらの課題や問題の解決を目指し、電磁波のある環境でも影響を受けにくい光ファイバーを用いた火力発電所の設備異常検知システムを開発。これにより数km以上の光ファイバー上を10cm間隔で連続的に温度測定できるようになりました。また専用AIを用いてその温度変化から漏洩や目詰まり、腐食といった異常をより精密に、かつリアルタイムに検知することを可能に。加えて光ファイバーの素材がガラスであるために耐久性も高く、長期的にみればコストを抑えることができるメリットも実現しました。

同システムは東北電力秋田発電所で実証実験が行われ、測定温度データの解析や、温度の上昇・低下タイミングの比較などによるリアルタイムでの温度監視や、異常検知が可能であると実証されています。

富士通の温度検知ソリューション「ODMA予兆監視 for光ファイバー」【出典】富士通 FUJITSU Business Application Operational Data Management & Analytics 予兆監視モデル for 光ファイバー温度検知ソリューション

コニカミノルタの赤外線カメラを活用したガス監視ソリューション

石油・化学プラントでガス漏れが発生した場合、これまでは検知器からのアラートをもとに作業員が漏洩源を特定するため、ガス漏れの解消までに時間を要していました。さらにそうした可燃性ガスが発生する可能性がある危険な場所では、使用する電気機器も爆発を防ぐ防爆機器を使う必要があります。

そうした危険な状況での作業には熟練の技術が求められるため、施設の老朽化や作業員の高齢化といった課題を抱える現場では、ガス漏れ監視の高度化が急務とされていました。加えてこの漏洩源の特定が万一遅れると、大事故や長期的な操業停止といった社会的な問題にもつながりかねません。

このような状況に対してコニカミノルタは、同社のコア技術であるレンズ設計や画像処理の技術を活用した、ガス監視ソリューションを開発しました。これは複数台の赤外線カメラをプラント内に設置することで、プラント内のガス漏れ状況を網羅的に、365日24時間監視することができるソリューションです。

万一ガスが漏洩した際には、その漏洩位置や濃度の推定情報を中央監視室のシステムに送信します。またガスの濃度に応じたカラーマップを表示することで、ガスの分布状況を一目で直観的に把握することが可能に。そしてそれらの情報を中央監視室から漏洩位置近くにいる作業員にリアルタイムで共有することができるため、作業員は迅速に適切な保全処置を行うことができるようになりました。 コニカミノルタのガス漏洩検査カメラで実現したガス漏洩の可視化【出典】コニカミノルタ ニュースリリース「ガス漏洩検査カメラを活用した防災診断サービスの開発について」

次世代の社会インフラを担うソリューションとして活用が進む公共安全センサー

昨今、世界各国でスマートシティの実現に向けた取組みが進んでいますが、その取組みのひとつとして社会インフラのDXも推進されています。例えば、カメラやマイク、センサーなどを搭載した「スマート街灯」は、道路の交通状況や事故の様子、犯罪に関わるデータを収集したり、非常時に人々を誘導する役目を果たしたりします。また「スマート交差点」は、カメラなどから入手した交通状況を分析し、信号のタイミングを変更するなど、事前に事故のリスクを検知し、住民の安全を守るために役立つことが期待されています。

技術革新と少子高齢化が進む今、従来よりも少人数で、従来と同等以上の品質と量の業務を行うためには、これまで属人化してきた熟練者の知識や経験を棚卸し、デジタル技術を用いて誰でも運用できるように仕組みを変えていく必要があります。今回ご紹介した「公共安全センサー」もまた、次世代の社会インフラを担う一翼として世界でも活用が進んでいるのです。

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