公務員もテレワークの時代!?行政現場における成果と課題
働き方改革の推進や新型コロナウイルス感染症の拡大防止などを背景に、テレワークの導入に向けた取組みが進められています。それは行政も例外ではありません。
今年3月に改定された「国家公務員テレワーク・ロードマップ」では、デジタル・ガバメントの実現に向けて「令和7年度までにテレワークを活用することで、いかなる環境下においても必要な公務サービスを提供できる体制を整備する」と、目標年度とともにテレワーク推進の姿勢が打ち出されました。
これまでセキュリティ面や業務の切り出しの難しさなどから、公務員のテレワーク導入はあまり進んでいませんでしたが、現在は各省庁において少しずつ進んできています。
このような中、成果が出た取組みがある一方で新たな課題も浮き彫りになってきました。今年7月に発表された内閣官房による「2020年度(令和2年度)国家公務員テレワーク取組状況等調査の結果」及び過去発表された同調査結果では、それらについて詳細にまとめられており、民間企業がテレワークの導入を図る上で参考となる部分も少なくありません。
今回は同調査をはじめとする国の各調査結果を基に、テレワーク導入のポイントを解説します。
テレワーク推進を目指した導入環境、制度、組織文化の変革
公務員の現場においてテレワークの導入が進んだ取組みとして、「2020年度(令和2年度)国家公務員テレワーク取組状況等調査の結果」及び過去発表された同調査結果では大きく3つの要素が報告されています。
IT環境の整備
- パソコンの軽量化
- セキュリティ上、ホテルのWi-Fiが使えないため、ホテル用Wi-Fiルーターを追加調達
- テレワーク専用端末がない地方支分部局などに出張用端末を用意
- ウェブ会議やテレビ会議の機能を拡充
- 職員の席上端末の持ち帰りを許可達
- 省庁のシステムに外部から接続できるようリモートアクセスを導入。またこれに伴い、1日にテレワークを実施可能な人数の制限を撤廃
- テレワーク用端末を一括管理することで、より多くの職員がテレワークを実施できるよう調整
- テレワークを利用するために必要なソフトウェアなどの情報資産の拡大
制度や実施ルールの見直し
- 各種申請を書面ではなく、メールや口頭でも済ませられるよう手続きを簡素化
- コロナ禍による感染防止対策だけでなく、災害時や交通機関の事故などにおいても当日申請を可能とするなどテレワークの対象範囲を拡大するとともに、申請から承認までの期間を短縮
- 期間業務職員やパートタイム職員といった非常勤職員もテレワークの対象とするなど、対象職員を拡大
- テレワークの実施場所に関して、自宅だけでなく、実家や民間共同利用型のサテライトオフィス、地方支分部局などを対象としたほか、病気を患ったり怪我を負ったりした場合は病室でもテレワークを行えるようにルールを整備
- 省庁でなければ行えない業務がある職員なども考慮し、半日を含む時間単位でのテレワーク利用を許可
テレワークの普及啓発活動
- 職員に向け、新型コロナウイルス感染症対策として積極的にテレワーク実施を呼びかけ
- 各省庁の幹部や管理職に向け、幹部会議などで積極的にテレワークを推進するよう依頼。また幹部職員が積極的にテレワークを実施することで、テレワークを行いやすい環境を構築
- 課室単位で出勤回避率の目標を設定
- 省内のポータルサイトに幹部職員へのインタビューや活用事例などの掲載や、テレワーク時の課題を解決するノウハウをまとめたガイドを作成し周知
- テレワークをすでに活用している職員によるテレワーク徹底活用セミナーや、テレワーク希望者への相談対応
このように設備や制度を整備するだけではなく、職員の意識を変えるための普及啓発活動も行うことで、庶務業務や広報業務、管理業務といった業務はもちろん、予算・税制業務、法令制定業務、調査・統計業務、また国会対応業務などテレワークの導入が難しいとされてきた業務領域でも、少しずつ導入が進んでいます。
今後改善が求められる主な課題
テレワーク導入に向けた取組みを進めていく中で、今後の課題も浮き彫りになってきました。 内閣官房内閣人事局が今年6月に発表した「国家公務員のテレワークについて」によれば、55%の職員が「1年前にくらべてテレワークの生産性は改善した」と回答している一方で、58%の職員が「出勤時よりは生産性が低いと感じた」と回答しています。その背景には、主に4つの課題があります。
ハードウェアの数量・品質不足
IT環境の整備の重要性は認識され始めてはいるものの、ハードウェアの数量が不足していたり、外部からの電話に対応できなかったりするなど、整備が追い付いていない状況があります。このうち電話対応の課題に対しては、職員の私用携帯電話にアプリケーションを導入し、職場と電話した際の通信費を公費で負担したり、職場にかかってきた着信を自動転送したりと対応の円滑化を図っています。
ペーパーレス化が不十分
テレワークを実施するためには、書類を基本とした従来の業務のやり方を見直し、資料の電子化や決裁の電子化などによって、業務のペーパーレス化を行うことが大切です。しかし依然として紙資料を必要とする場面が多く、ペーパーレス化が不十分であるためにテレワークの導入が進んでいないと回答する職員も数多くいました。
これに対して、15の府省では審議会・幹部会議などの時にはペーパーレスを徹底するよう指示しています。国交省では4~8月に開催された116件の会議をペーパーレスで実施したほか、公正取引委員会では本局内のペーパーレス化実施状況を調査したりするなどしてペーパーレス化を進めています。
重要・突発的な業務対応
省庁での業務は、外部からの電話対応や国会対応など急を要するものも多く、そうした重要かつ突発的な業務への対応もテレワーク導入が進まない原因のひとつとして挙げられています。これに対してはウェブ会議などのICTを活用したり、業務の輪番制を導入したりするなど、環境や体制の構築に取り組んでいます。
業務分担が明確化されていない
テレワークに不慣れな職員は、どの業務をテレワークに割り当てるべきかわからないものです。そこで各省庁は、業務分担の適正化や明確化、また優先順位の明確化などマネジメントを徹底することで、テレワーク導入にかかる不安要素を減らそうとしています。
このようにテレワークの導入にはさまざまな課題が残っています。引き続きテレワーク導入を進めるため、各省庁による取組みが期待されます。
行政現場に学ぶテレワーク導入推進のための体制づくり
各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議による「国家公務員テレワーク・ロードマップ」では、こうした取組みや課題についてさらに詳細に報告されています。
業務内容や組織文化の特性上、民間に比べてテレワーク導入のハードルが高い傾向にあると考えられる公務員の現場であっても、その推進を目指してさまざまな取組みが行われており、これらは民間企業のテレワーク導入推進においても参考となるはずです。今回ご紹介したように、環境面や制度面、そして組織文化の面において総合的な体制づくりを行うことが、テレワーク導入の成功に欠かせない姿勢といえるでしょう。
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