「DX銘柄」に学ぶDX推進のための企業経営者の在り方

DX実行部隊。全社を横断してDXを推進するチーム「CoE」とは?」で述べたように、近年ではDXの重要性が認識されるようになってきました。しかしその一方で、まだ事例が少なく具体的な進め方や「何をもってDXに成功したといえるのか」などの評価ポイントが明確になっていないために、足踏みしている企業も少なくありません。

そこで経済産業省と東京証券取引所は、DX推進の参考となるようなモデル企業として「DX銘柄」を選定しました。

DX推進モデル企業としての「DX銘柄」

DX銘柄等の選定企業分類と、2021年の選定企業数【参考】経済産業省「「DX銘柄2021」選定企業レポート」をもとに弊社で作成 2021年6月、経済産業省は「DX銘柄2021」「DX注目企業2021」を発表しました。

「DX銘柄とは、東京証券取引所に上場している企業の中から、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を、業種ごとに最大1~2社ずつ選定して紹介するものです。DX銘柄に選定された企業は、単に優れた情報システムの導入、データの利活用をするにとどまらず、デジタル技術を前提としたビジネスモデルそのものの変革及び経営の変革に果敢にチャレンジし続けている企業です。」 引用:経済産業省「「DX銘柄2021」「DX注目企業2021」を選定しました!」

「DX銘柄」の前身は、2015年に始まった「攻めのIT経営銘柄」です。「攻めのIT経営銘柄」では、「中長期的な企業価値の向上や競争力の強化のために、経営革新、収益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT利活用に取り組んでいる企業(※)」が選ばれていましたが、世界中でDXの潮流が起こっていることを踏まえ、2020年からDXに焦点を絞って選定する「DX銘柄」に改められました。

経済産業省は「DX銘柄」を発表することで、DXの進め方などに悩む企業に対して参考となる企業のDX推進モデルを提示するとともに、経営者のIT活用に関する意識変革を促し、企業のDX促進を図っています。また「DX銘柄」に選ばれた企業には、投資家を含むステークホルダーに紹介するなど、DXに向けて前向きに取り組んでいる企業として評価される枠組みをつくり、企業が積極的かつ自主的にDXに取り組むようサポートしています。

経営者に実践が求められる「デジタルガバナンス・コード」

「DX銘柄」に選ばれるためには、2回の審査を突破する必要があります。加えて、2021年度からは「DX銘柄」のエントリーに「DX認定」の申請が必要となりました。

「DX認定」とは、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業を、経済産業省が下記基準からDXReady企業として認定する制度です。

経営ビジョンの策定やDX戦略・体制の整備などをすでに行い、DX推進の準備が整っている 引用:独立行政法人情報処理推進機構「プレス発表 デジタル・トランスフォーメーション推進のため、DX認定制度のウェブ申請を開始」

認定の際に評価基準となる「デジタルガバナンス・コード」は、DXなど企業価値向上に向けて経営者が実践すべき事柄をまとめたもので、以下の4つの柱から成り、それぞれに「柱となる考え方」「認定基準」「望ましい方向性」「取組み例」が設けられています。

「デジタルガバナンス・コード」の4つの柱立て
1.ビジョン・ビジネスモデル
2.戦略
2-1.組織づくり・人材・企業文化に関する方策
2-2.ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
3.成果と重要な成果指標
4.ガバナンスシステム 引用:経済産業省「デジタルガバナンス・コード」

経営者はこれらに基づき、経営ビジョンの策定・公表といったステークホルダーとの対話に積極的に取り組み、社内の体制を整備することで、DXReadyな企業として「DX認定」されます。

「DX認定」された後、「DX銘柄」に選定されるためには、2段階の評価を受ける必要があります。一次評価では、前述した「デジタルガバナンス・コード」の柱立てに沿って設けられたアンケートの選択式項目とROEの直近3年間平均をスコアリングし、選定されます。

二次評価は、DX銘柄評価委員会が「企業価値貢献度」と「DX実現能力」の2つの観点から、業種ごとに「DX銘柄」を選定します。今年は28社が「DX銘柄」として選ばれました。中でも日立製作所とSREホールディングスは、“デジタル時代を先導する企業”にふさわしい企業として「DXグランプリ」に選定されています。また、DXの裾野を広げるために、「DX銘柄」に選定されていない企業の中から、注目されるべき取組みを実施している20社が「DX注目企業」として選ばれました。 「DX銘柄」二次評価の評価ポイント【出典】経済産業省「「DX銘柄2021」選定企業レポート」 「DX銘柄」二次評価の評価ポイント【出典】経済産業省「「DX銘柄2021」選定企業レポート」

「DXグランプリ」選出企業の取組み

では「DXグランプリ2021」に選ばれた日立製作所とSREホールディングスは、どのような取組みを行い、どのような点が評価されたのでしょうか。

日立製作所URL:https://www.hitachi.co.jp/

日立製作所は製造業として長年培ってきたOT(制御・運用技術)と先端技術を掛け合わせ、データから価値を生み出す「Lumada」ソリューションを核に、社会インフラをDXする社会イノベーション事業をワールドワイドに展開しています。

またDXを実現し、社会課題を解決するため、

  • 同社やパートナーのデジタルソリューションや技術をつなぐ「Lumada Solution Hub」
  • 業界を超えてパートナーをつなぎ、イノベーションを創出する「Lumadaアライアンスプログラム」
  • 知恵やアイディアをつなぐ協創の場「Lumada Innovation Hub」

といった、「Lumada」を基盤とした部署や組織を超えて協創する風土づくりを進めています。

加えて、これらによって生まれたデジタルソリューションをクラウド基盤上でパッケージ化し提供するなど、DX自体が同社の変革のエンジンとなっている点や、DXのサプライヤーとして他業種・他社を先行している点が評価されました。

LUMADAサイト【出典】日立グループウェブサイトより

SREホールディングスURL:https://sre-group.co.jp/

SREホールディングスは不動産事業の業務を効率化し生産性を向上させる過程で、「AI不動産査定ツール」や「不動産売買契約書類作成クラウド」など、実用有効性の高いAIソリューション・ツールを開発しました。
自ら不動産業者として長年培ってきた知見やデータをもとに開発したこのAIソリューション・ツールは外部にも提供しています。
今後は外部パートナーとのデータアライアンスにより、不動産業界以外のプロダクトも拡充し、多様な産業のDXを推進するAI SaaSプロバイダーへと進化することを目指しています。
このようにこれまでの不動産業界にはなかったビジネスモデルを構築している点や、「脱不動産」に向けてDXによって多角的なビジネスを推進している点が評価されました。

「DXグランプリ」の日立製作所とSREホールディングスは、いずれも「デジタイゼーション(業務のデジタル化)」「デジタライゼーション(ビジネスモデルのデジタル化)」「DX(持続可能なビジネスモデルへの変革)」への3ステップを見事に進めた企業といえるでしょう。 SRE AI Partners株式会社サイト【出典】SRE AI Partners株式会社ウェブサイトより

関連記事:行政DXにみる、DX実現までの3つのステップとは

経営者のビジョンとコミュニケーションが必須

「DX銘柄2021」の特徴【出典】経済産業省「「DX銘柄2021」選定企業レポート」 「DX銘柄」に選ばれた企業は、ビジョンやビジョンを実現するためのビジネスモデルと戦略を明確に打ち出し、実践していることが特徴です。それは審査の過程で実施したアンケート調査で、下記にまとめた項目において「DX銘柄」企業と「DX認定」未申請企業との差が大きく開いていることからもわかります。

  • DX推進に向けたビジョンを実現するため、適切なビジネスモデルを設計し、かつビジネスモデル実現に向けて、DX推進のエコシステムなど企業間連携を主導している
  • DXを推進するための具体的な戦略を立て、ステークホルダーに開示している
  • 経営戦略の中で、データとデジタル技術を活用し、既存ビジネスの変革や新規ビジネスの創出を目指す取組みを明示し、かつ実施し、効果を出している

このように、経営者が本格的にDXに取り組もうとする姿勢は、DX推進のための予算を他のIT予算と分けて管理したり、一定の金額や予算比率を設定したりと安定的に確保する仕組みづくりや、DX推進に向けて新しい挑戦を促すとともに、継続的かつ積極的に挑戦するマインドセットを醸成する制度や仕組みづくりにつながり、好循環となっていることが考えられます。DXで成果を最大化するためには全社的に進めることが重要なため、経営者の姿勢とメッセージがDX推進の大きな後押しとなっているのです。

そして、経営者が打ち出したビジョンに基づき、戦略を実行していくDX推進チームも必要不可欠です。DXは社内を改革する一大プロジェクトであり、片手間でできる仕事ではありません。経営者は専門のDX推進チームを設置し、CDOなどDX推進チームの責任者と定期的にコミュニケーションを取りながら、着実に進めていくことがDX成功の秘訣といえるでしょう。

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