【インタビュー】センシンロボティクス 〜ハードウェア×プラットフォーム×アプリケーションの3軸で“インフラ危機”を防ぐ

株式会社センシンロボティクス 代表取締役社長 北村卓也氏

国内には化学プラントや通信設備、送電鉄塔、発電所など、私たちの生活を支える様々な社会インフラがあります。しかし少子高齢化に伴う労働人口の減少や、設備の老朽化に伴うメンテナンスコストの増大、災害の甚大化など構造的な社会課題によって、今後こうした社会インフラは現状維持さえ難しいと考えられています。

そんな中、株式会社センシンロボティクスはハードウェア×プラットフォーム×アプリケーションを組み合わせ、インフラ設備の保守・点検業務を完全自動化することで、これらの課題解決を目指しています。

そこで今回は同社代表取締役社長の北村卓也氏に、同社がどのようにこれらの課題に取り組んでいるのか伺いました。

以降はインタビューでの北村卓也氏の発言を編集の上掲載しています。

ハードウェア×プラットフォーム×アプリケーションの3軸で目指すデータの利活用

一般的に、インフラの保守・点検を行うためには「データを取得する」「データを分析する」「データを利活用する」という3つのプロセスが必要です。

このうちドローンで「データを取得する」会社は多数存在しますが、それだけではいずれ価格競争になってしまいます。また「データを取得する」だけでは真の意味で企業や社会の課題を解決しているとはいえません。そのため弊社では、企業の現場が抱える課題を掘り下げ、定性的・定量的にインパクトを出せるプロセスを考えています。

というのも私は元々外資系企業で、財務データや人事情報などのインフォメーションデータと、現場の装置から取得したオペレーショナルデータを統合し、AIなどを用いて「データを分析する」デモの開発などに多数携わってきました。しかし日本企業の場合、そもそもオペレーショナルデータを手書きで記入していたり、デジタル化といってもエクセルに記入するだけだったりと、真の意味でデジタル化されておらず、デモを開発しても、実際に「データを利活用」する段階にまでは至っていない企業が多いと感じていました。

そこで弊社では、個々の企業の現状に合わせて「ハードウェア」「プラットフォーム」「アプリケーション」を組み合わせ、課題を解決することを重視しています。

まず「ハードウェア」については、自動走行ロボットやドローン、スマートグラスなど、すでに市場に出回っている既存のデバイスを用いています。これらを自社開発すると時間やコストがかかりますし、用途に沿って都度開発していてはビジネスがスケールしません。実は弊社にはハードウェアを自社開発できる人材がそろっているのですが、それはあくまで他社のハードウェアや技術を正しく評価したり、企業に合わせてハードウェアをカスタマイズしたりするためだと位置づけています。

そしてこれらのハードウェアの操作を自動化したり制御したりする業務を、できるだけ人が介在しなくても済むよう「プラットフォーム」を開発しています。この「プラットフォーム」には、例えばハードウェアを動かして収集したデータを管理・共有したり、そのデータを駆使して設備を3Dモデリングしたり、その3Dモデリングと新たに収集したデータをAIで画像解析して異常を見つけたりする機能があります。

ただし、どれほど高度な「プラットフォーム」を用意しても、現場の作業員はITの専門家ではないため、簡単に操作できなければ使ってもらえません。そこで現場のニーズに沿って必要な機能だけを使いやすくする「アプリケーション」の開発も行っています。

センシンロボティクスの業務自動化クラウドソリューション

多数の大手企業とアライアンスを締結、泥臭く現場のニーズを探ってきた

これらの開発を進めるためには、企業の協力が必要不可欠です。そのため弊社ではENEOSや日立パワーソリューションズ、中部電力パワーグリッドなど、業界をリードする企業とアライアンスを組んできました。

設備に求められる点検手法や技術的な課題は会社や現場によって異なるため、実際に現場に飛び込んでヒアリングしなければニーズは掴めません。ですから弊社のスタッフは現場に何度も通い、ヘルメットと安全靴作業着を着て地道にヒアリングをしています。また業界でも初めてカスタマーサクセスチームを作りお客様の業務効率化のサポート、「プラットフォーム」や「アプリケーション」の改良も進めてきました。正直、ここまでしている企業はほとんど存在しないと思います。

そうして現場に即した形で地道に開発しているからこそ、開発した「プラットフォーム」は他社向けのソリューションとしても展開しています。あくまで弊社の自社開発という位置づけです。これが認められているのは、一緒に開発している企業自体も、すでに弊社が開発した「プラットフォーム」を活用するほうが開発コストや時間を抑えられるからです。そういう意味では、弊社はコンサルファームでもSlerでもなく、SaaSソフトウェアの企業に近いビジネスモデルだと考えています。

提携事例①中部電力パワーグリッド:送電鉄塔と送電線の一括点検ソリューション

例えば全国には送電用鉄塔が24万基あり、今までは全て人力で点検していました。しかし先に述べたような労働人口の減少や、メンテナンスコストの低減が課題となっています。また作業自体も宙乗り(ぶら下がって点検すること)など非常に危険性が高く、過去には点検時の災害も発生しています。同様の事故を防ぐため、作業の効率化、省力化が求められています。

そこで弊社では鉄塔と送電線をドローンで一括点検できるシステムを開発しました。このシステムは、点検飛行ルートを自動的にたどりながら鉄塔と送電線の現状のデータを取得するというものです。鉄塔や送電線にドローンがぶつからないよう、ノンフライゾーン(ドローンが飛行できない空間)を設定して設備から一定の距離や位置を維持して飛行させます。これにより鉄塔と送電線の点検を自動化することができ、作業効率化の実現に成功しています。

とはいえ、鉄塔は膨大にあるので、すべてを自動観測することはできません。あくまで弊社がこのシステムで実現したいのは「人による点検が必要かどうか」のスクリーニングです。定期観測を行い、「人が登って点検する必要がある鉄塔」と「ドローンで点検するだけでよさそうな鉄塔」を区別できれば、本当に必要な箇所に人材を投入することができますし、点検の効率化が図れます。また従来は点検する作業員によって、点検の品質も異なっていましたが、人が介在しないこのシステムを用いれば、点検品質の均一化も図ることができます。

いずれは蓄積したデータを分析することで、潮風が吹き鉄塔の劣化が激しい海沿いのエリアや、部材による劣化なども予測できるようになるため、劣化が深刻化する前に先手を打って集中的に点検やメンテナンスを施すこともできるようになるでしょう。

提携事例②日立パワーソリューションズ:風力発電設備のブレード点検システム

別の点検ソリューションとして、日立パワーソリューションズと共同開発した風力発電設備のブレード点検システムがあります。
ドローン自動撮影技術とAIによる画像解析技術を導入することで、1基当たりの点検時間を短縮、高精度な点検を可能にします。画像データはAI解析することで、損傷の個所や状態を自動判定します。提携事例①の送電鉄塔と送電線の一括点検ソリューションも、風力発電設備のブレード点検システムも、『SENSYN CORE』の機能をベースにすることで、短期間で高性能のシステムの開発を実現しています。 自動飛行するドローンが、1つのブレードに対し、5方向から高精細な画像を撮影。損傷個所や状態を自動判定し、過去の撮影データとの比較により、損傷傾向の分析などが可能になる。【出典】センシンロボティクス プレスリリース「センシンロボティクス、日立パワーソリューションズと共同で風力発電設備のブレード点検システムを開発」

関連リンク:日立パワーソリューションズ ニュースリリース「日立パワーソリューションズが、ドローンとAIを用いた点検・保守計画立案・ブレード補修の風力発電設備向けワンストップサービスを提供開始」

提携事例③自治体:防災・減災ソリューション

東日本大震災のとき避難誘導は人力で行われました。しかし誘導する人自身が災害に巻き込まれたり、誘導する方向を間違えて被害が拡大したりするケースが散見されました。

そこで弊社では仙台市やNTTドコモと提携し、スピーカーを搭載したドローンを飛ばして住民を音声で避難誘導するシステムを開発しました。ドローンに搭載したカメラで津波がどこから来ているか確認し、逃げている人に適切な方向へ「逃げてください!避難場所は〇〇です」とアナウンスするのです。また画像解析を用いて逃げ遅れた人がいないか確認することもできます。そして万が一発見した際には救助隊を急行させます。いずれもディープラーニングを駆使すれば外国人であることも特定ができますし、多言語でアナウンスすることも可能です。

また仙台市の方から言われて印象的だったことに「発災から30分以内は自分の身を守ることが精一杯で何もできません」という言葉がありました。もしその30分の間にドローンなどが自動で周囲の状況を撮影してくれれば、本当に必要な場所にピンポイントで迅速に自衛隊の派遣要請できますし、減災にもつながります。

そこで災害を検知したドローンが自動で空から被災状況を撮影し、リアルタイムに自治体の災害対策本部などに共有するソリューションを開発しました。これにより円滑に避難誘導などのアクションをとることができるようになります。これは愛媛県の伊方原発で実際に運用されているものですが、伊方原発は四国の突端にあり、災害が発生した際に船で海側に逃がすか、車で内陸に逃がすか、避難誘導する方向で被害規模が大きく変わるため、いち早く被害の全容を把握する必要があります。そのためドローンの運用台数も1基だけではなく、最大20基まで同時展開できるようにして、一度に数十キロをカバーできるようにしました。

将来的にはドローンの発信基地を全国の自治体や民間設備の要所に設置し、平時はインフラ点検に、災害時は地震計や波浪計の数値に反応して自動でドローンが飛び、減災対応に貢献できるようにしたいと考えています。

ドローンが要救助者の場所を特定する減災ソリューション【出典】センシンロボティクス プレスリリース「北海道 更別村での災害・事故発生時 危機管理の初動対応に『SENSYN Drone Hub』を活用」

提携事例④ENEOSホールディングス:実証実験フィールド「ENEOSカワサキラボ」の開設

弊社はほかにも建設現場で測量を行うシステムの開発や、工場や設備といった屋内でドローンを飛行させ、点検を行う実験を進めてきました。このように様々な企業と提携し、課題を見つけたり、課題に対するソリューションを開発したりする中で、あらためて「現場」の大切さを実感しています。しかし、それらのソリューションを実験・実証するために、稼働中の現場を用いることは非常に危険です。

そこで元々ENEOSの石油プラントだった施設を、それらのソリューションを実験・実証する場として解放していただき、2021年11月に「ENEOSカワサキラボ」として開設しました。

ENEOSカワサキラボでは、飛行実験や障害物の回避実験のほか、官公庁や公的機関の方々にもお越しいただき、ドローン活用に関する新たなレギュレーションの策定や標準化を議論する場にもなっています。 ドローンによる配管点検の様子【出典】センシンロボティクス プレスリリース「ENEOS株式会社川崎事業所にドローンのショーケース兼実証フィールド 「ENEOSカワサキラボ」を開設」

課題解決のための最短・最速のアプローチで“社会の「当たり前」を進化させていく”

インフラ業界は、市場の寡占が進んでいて競争も少ないですし、新技術を投入しなくても現状維持できているビジネスモデルです。しかし、少子高齢化や設備の老朽化が着々と進行する今、ここで新技術を導入しなければ日本の社会インフラが危うくなってしまいますし、日本の国力も落ちてしまうでしょう。

個人的には、大企業や自治体には変わることを恐れずに、リスクをとってでも弊社のような新しい技術を持つ企業と積極的に提携し、中小企業も追従しやすい環境をつくっていただきたいと考えています。先端領域は誰かがやらなければ進みませんし、投資が増えれば加速度的に進化するでしょう。

現に、中国ではイノベーションに犠牲はつきものだという考えを前提に、何千万もする装置をまず政府や自治体が購入し、その後に民間が追従して導入しているという話を聞きます。深圳の街中でもリスクを承知でドローンを飛ばして実証実験している様子を見て、考え方の違いを感じました。

そうして技術導入を繰り返し、どれだけ効果が出たかエビデンスを出していけば法律や規則も整備もされていきます。そのために弊社では一緒に取り組んでくれるパートナーを大切にしていますし、経団連に入ったり、講演会などを行ったりと啓蒙活動も行っています。

弊社が向き合っている課題は新しく、勝ち筋が見えないものばかりです。だからこそ常識に捉われず化学変化を起こしながら挑戦できるよう、経験の多様性を重視して人材を集めています。またそれらの人材とともにいち早く挑戦し、失敗しては高速で改善し続けることを大切にしています。

そうして最短・最速のアプローチで「ドローンやロボットとソフトウェアを連携させたソリューションが当たり前に使われている世界」を目指しているのです。近年では、顧客関係管理ツールや会計ソフトなどのSaaSプロダクトがとても普及していますが、ドローンソリューションも同じレベルで導入できる社会をつくれたらと考えています。

株式会社センシンロボティクス 代表取締役社長 北村卓也氏
取材・文=鈴木 雅矩
1986年生まれのライター。過去に400件以上の取材記事を執筆し、近年はスタートアップやテクノロジーなど、ビジネス領域を中心に活動中。著書に『京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)』。
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